毒性の高い人工衛星の推進剤 より安全で高性能な物質を求めて

毒性の高い人工衛星の推進剤 より安全で高性能な物質を求めて

推進剤には毒がある?

ロケットや人工衛星の姿勢制御には「スラスタ」と呼ばれる小さいロケットエンジンが使われています。スラスタの推進剤として、ヒドラジンという物質が用いられています。ただしヒドラジンには、万が一宇宙機が墜落するなど、物質が漏れる可能性がある場合、周辺地域への立ち入りが制限されるほどの高い毒性があります。そのため、より安全な推進剤をみつけようと世界中で研究が始まりました。

新たな推進剤の候補を探す

毒性が低く、多くのエネルギーを発生させる推進剤の候補として、「ヒドロキシルアンモニウムナイトレート」という物質があります。火薬や爆薬と同様、高いエネルギーを有する物質です。ヒドロキシルアンモニウムナイトレートをベースとした推進剤は、大気圧下で火を近づけても簡単には着火しないのですが、ロケットエンジンなどの高い圧力の下で着火すると爆発的に燃焼することがわかっています。そのため、例えば貴金属系の触媒を使用するなど、燃焼を制御するための研究が行われています。
また、スラスタに推進剤を送り込む方法についても、ヒドロキシルアンモニウムナイトレートは、ヒドラジンとは粘度や火の着きやすさが異なるため、従来の方法が最適とは限りません。実際にヒドラジンど同様の方法でヒドロキシルアンモニウムナイトレートを噴射すると、うまく燃焼しないことがわかっています。そこで噴射方法の改良のための研究も行われています。

より高い性能の推進剤をめざして

これまでにヒドロキシルアンモニウムナイトレートを使った推進剤が開発され、ヒドラジンよりも十分に毒性が低いことがわかっています。しかし毒性が低いというだけでは、普及させることは難しいでしょう。すでにノウハウが蓄積され、専用の設備などの環境が整っているヒドラジンのほうが、宇宙開発の現場では扱いやすいからです。そのため、安全に取り扱うことができるだけでなく、新しい推進剤にはさらなる性能の向上が求められています。

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長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 機械工学工学分野 准教授 勝身 俊之 先生

長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 機械工学工学分野 准教授 勝身 俊之 先生

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宇宙推進工学、燃焼工学

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日常から得られる学びを大切にしてほしいです。例えば、打ち上げ花火の音が聞こえるまでにかかった時間から、打ち上げ場所までの距離を計算するなど、教科書の内容を活用できる機会はたくさんあると思います。宿題や塾だけでなく、勉強したことを基に遊びを楽しんでください。
そして航空宇宙業界に興味があるとしても、選択肢は航空宇宙学科一択ではないと思います。航空宇宙業界ではさまざまな分野に秀でた人が求められており、機械、情報、化学、生物など別の学科で知識を蓄え、その分野の専門家として活躍する道もあるからです。

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