平安時代の文学に現代の「多様性」を見る
世界的に見ても異例な平安文学
『源氏物語』は世界中で読まれており、アメリカやフランス、中国などで盛んに研究されてもいます。1人の女性(と考えてもよいでしょう)が約70年もの時間を描く物語を生み出したことは特筆すべきことで、どういう時代背景から生み出されたのかも比較的詳細に残っています。
さらに言えば、平安時代の文学自体が特殊で、『枕草子』や、『蜻蛉日記』など、教養の高い女性のセルフポートレートがこれほど多く残っている国はほかにありません。内容的にも日々を生きる人間の悲しみや喜びという普遍的なものであることから、これらの作品も多くの人に愛されています。
源氏物語が後世の作家に与えた影響
源氏物語以降、後世の作家は否が応でもこの偉大な作品の影響下に置かれることになりました。菅原孝標女は『更級日記』の中で、源氏物語の登場人物のように生きたいと望みながら平凡な人生を送ったことを嘆いています。また、編者不詳の『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」は、源氏物語をパロディ的に扱いながら新しい人間像を模索しています。そして、虫が好きで化粧を嫌う姫君に憧れを抱く現代の読者も多いのです。多様性を重んじる昨今の風潮も追い風となっているのでしょう。女性的な若君と快活な姫君が入れ替わる『とりかへばや物語』も、最終的には元に戻ってめでたしめでたしではなく、これでよかったのかと、ジェンダー的観点から考察されるようになっています。
現代の感覚を重ねることも研究の一つ
当時と現代では人々の感覚はかなり異なるでしょうが、男女ともに抑圧された生活を送っていた平安時代の貴族たちに、現代の人はどこか自分を重ね合わせるところがあります。今の私たちでいうと優れたものがすべて自分たちの前の時代にできてしまったという感覚に共感を覚える人も多いでしょう。文学作品はそれぞれ一定の解釈しかないと考えられがちですが、読み手が異なれば理解も変わります。正しい解釈の上で、現代の感覚に照らし合わせながら読むことも、文学研究の一つの側面なのです。
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東海大学 文学部 日本文学科 教授 下鳥 朝代 先生
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