言葉の力で世界の見方を変える、「批評」の研究

文学と批評
文学研究においては、作品や作家だけでなく、それらに対する「批評」も重要な研究対象です。「批評」の読み方は様々ですが、「何かについて、科学的な言葉と日常的な言葉を混ぜて語っている」という点に注目してみると、興味深い問題が見えてきます。例えば戦前の「プロレタリア文学」というジャンルの作品の多くには、マルクス主義の影響が色濃く見られます。当時、マルクス主義は「科学」としてとらえられており、それを理解するには学問的な言葉を学ぶ必要がありました。批評家たちはそうした難しい言葉と日常的な言葉を混ぜ合わせて文学を語ることで、思想や社会、人間についての言説を広める役割を果たしたのです。
推し活と批評
かつての日本では、文芸批評家はオピニオンリーダーであり、一部の若者にとっての憧れの対象でもありました。メディアが多様化し、新聞や雑誌などの媒体をめぐる環境が大きく変わった現在では、文学や批評のあり方や影響力も変化しています。他方で、社会現象や創作物について熱心に語る営みは、今も変わらず色々なかたちでメディアのなかに見ることができます。例えばインターネットにはマンガやアニメを対象として「推し」について書かれた言葉がたくさん存在していますが、こうした文章もまた、コンテンツについて語られた言葉の蓄積という点においては文芸批評と共通しているといえます。
言葉の歴史に注目する
戦前・戦後の文化運動に関わった批評家は、当時の社会について考えるにあたって、「資本主義」や「民主主義」といったキーワードを用いていました。これらの言葉は、今日においても現代社会を論じる際に使われているものです。言葉の歴史に注目してみると、過去と現在のつながりが見えてきます。言葉の力によって世界の見方を変えようとした批評家たちの言葉を読み直すことは、今の私たちについて考えることにも結びついているのです。
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