言葉を知らなければ世界は存在しない

言葉を知らなければ世界は存在しない

言葉を知らない子どもの周りにはものが存在しない

本、バッグ、辞書、制服など、私たちはいろいろなものにとり囲まれています。しかし実は、「本」、「バッグ」、「辞書」、「制服」という言葉がなければ、それらのものは「存在しない」のです。まず、子どもの話をしましょう。小さな子どもを連れてコンビニに立ち寄ったときのことです。コンビニの本売り場では、ガラス越しに外に向けて本や雑誌を並べています。子どもは、遠くから本を見て「アンパンマンだ!」と瞬時に見つけました。しかし、大人は近くによってよく見てやっと、「ああ、本当にアンパンマンだね」とわかったのです。これは、子どもがほかの本の名前を知らなくて、唯一アンパンマンだけを知っていたので、すぐに見つけられたのです。つまり、アンパンマン以外の本は、この子どもにとって「存在していなかった」からといえます。

愛という言葉を知ると愛が存在するようになる

もう少しわかりやすい例で考えてみましょう。例えば、小学校のとき、気になる子がいて、なんだか胸がもやもやするけれど理由がわからない、という経験は誰にでもあるでしょう。そして、中学生になって小説などを読んで「愛」という言葉を知り、「ああ、あれが愛だったんだ」と気づきます。このとき初めて、私たちの中に、愛が存在するようになるのです。もともと愛があって、それに名前をつけたのではなく、愛という言葉を知って、初めて愛が存在するようになるのです。

ものが先ではなく言葉が先

冒頭で述べた、身の周りにある本、バッグ、辞書、制服も、その言葉を幼い頃に私たちが知ったときに初めて、「そこにある」ことになったわけです。それ以前は、「なかった」のです。「ものが先にあるのではなく、まず言葉があってそれからものが存在する」ようになります。ですから、本を読んで言葉を覚えれば覚えるほど、存在するものは増え、世界はどんどんと広がっていくのです。

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先生情報 / 大学情報

実践女子大学 文学部 国文学科 教授 棚田 輝嘉 先生

実践女子大学 文学部 国文学科 教授 棚田 輝嘉 先生

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国文学

メッセージ

私が教える学生の卒業論文テーマは、国文学が6割、歌の歌詞やマンガが4割です。文学は総合科学ですから、なんでもテーマになります。文学であれ、歌詞であれ、マンガであれ、その作品と自分なりに格闘すればよいのです。例えば、大正末期の短編に『檸檬』がありますが、主人公は八百屋で買ったレモンを洋書店の棚に置いていきます。そこで、私はレモンを買って家に帰り、放置するとどうなるかやってみました。すると2カ月たっても腐らず、黒ずんで小さくしぼんだのです。これも、文学研究のひとつの姿勢です。

先生への質問

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実践女子大学・実践女子短期大学では、創立から120年間一貫して、品格高雅にして自立自営し得る女性の育成を建学の精神とし、実践的な学業を授けることで、社会で活躍する多くの女性を送り出してきました。この建学の精神は女性のより一層の社会的な活躍が求められる現代社会においてとても重要な意味を持っているといえます。そのため、社会を支え発展させる女性を世に送りだすことは本学の責務であると考え、長い伝統で培った全ての環境を活かし全力で女性、学生の支援をしています。