言葉を知らなければ世界は存在しない
言葉を知らない子どもの周りにはものが存在しない
本、バッグ、辞書、制服など、私たちはいろいろなものにとり囲まれています。しかし実は、「本」、「バッグ」、「辞書」、「制服」という言葉がなければ、それらのものは「存在しない」のです。まず、子どもの話をしましょう。小さな子どもを連れてコンビニに立ち寄ったときのことです。コンビニの本売り場では、ガラス越しに外に向けて本や雑誌を並べています。子どもは、遠くから本を見て「アンパンマンだ!」と瞬時に見つけました。しかし、大人は近くによってよく見てやっと、「ああ、本当にアンパンマンだね」とわかったのです。これは、子どもがほかの本の名前を知らなくて、唯一アンパンマンだけを知っていたので、すぐに見つけられたのです。つまり、アンパンマン以外の本は、この子どもにとって「存在していなかった」からといえます。
愛という言葉を知ると愛が存在するようになる
もう少しわかりやすい例で考えてみましょう。例えば、小学校のとき、気になる子がいて、なんだか胸がもやもやするけれど理由がわからない、という経験は誰にでもあるでしょう。そして、中学生になって小説などを読んで「愛」という言葉を知り、「ああ、あれが愛だったんだ」と気づきます。このとき初めて、私たちの中に、愛が存在するようになるのです。もともと愛があって、それに名前をつけたのではなく、愛という言葉を知って、初めて愛が存在するようになるのです。
ものが先ではなく言葉が先
冒頭で述べた、身の周りにある本、バッグ、辞書、制服も、その言葉を幼い頃に私たちが知ったときに初めて、「そこにある」ことになったわけです。それ以前は、「なかった」のです。「ものが先にあるのではなく、まず言葉があってそれからものが存在する」ようになります。ですから、本を読んで言葉を覚えれば覚えるほど、存在するものは増え、世界はどんどんと広がっていくのです。
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先生情報 / 大学情報
実践女子大学 文学部 国文学科 教授 棚田 輝嘉 先生
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