生物進化の立役者? 遺伝子の「運び屋」プラスミドの謎を解け
遺伝子を運ぶプラスミド
遺伝子は、親子関係のない個体間、さらには別の種にも伝わることがあります。「遺伝子の水平伝播」と呼ばれるこの現象は、細菌の薬剤耐性のような劇的な性質の変化を可能にして、生物の進化や適応力獲得に寄与してきたと考えられています。水平伝播の担い手の一つである「プラスミド」は微生物が持つDNAで、染色体から独立して存在し、環状または線状をしています。薬剤耐性遺伝子を運ぶプラスミドの研究は進んでいますが、それ以外の土や川など環境中に存在する微生物のプラスミドの種類や動態についてはまだほとんどわかっていません。これらの研究は薬剤耐性の問題解決や、プラスミドの有効利用などにつながると考えられます。
未知のプラスミドを解析
プラスミドは、プラスミドを持つ細菌から持たない細菌へと移動します。川や湖の底泥や下水処理場から採取した試料を、プラスミドを持たない細菌と混ぜ合わせれば、環境にあるプラスミドを回収できます。こうして集めたプラスミドを調べた結果、環境中には予想以上に未知のプラスミドが存在していることがわかってきました。収集したプラスミドは、微生物群のモデルを使ってどの微生物に移動するのかを調べて環境中での動態を予測します。
現在は緑膿(りょくのう)菌の仲間を対象に研究が行われていますが、究極的には全微生物のプラスミド解析が目標とされています。また、収集したプラスミドの一部を遺伝子組み換えなどに使えるベクター(運び屋)にして、バイオリソースとして提供することも構想されています。
日本発のプラスミドデータベースの構築
プラスミドの研究は、分子生物学の黎明(れいめい)期である1970年代に日本で盛んに行われ、日本の研究は世界をリードするものでした。しかし、当時の貴重なデータは適切に引用されておらず、アクセスしにくい状態で、その多くが現在のプラスミド研究に生かされていません。そこで、世界の研究者が利用できるような、日本発のプラスミドデータベースを構築する取り組みも進められています。
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静岡大学 工学部 化学バイオ工学科 教授 新谷 政己 先生
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