黒子の美学 ~電気を自在に操るパワーエレクトロニクスの世界~

エアコンを省エネにするインバータ
私たちの快適な生活を支えてくれるエアコンは、実は、家庭の消費電力の約3割を占めるほど電力を使います。エアコンの省エネ性能を向上させることは、地球温暖化防止にも大切なのです。
エアコンは、空気を圧縮するコンプレッサをモータで動かしています。モータの回転の速さは、交流電流の周波数(電流の向きが1秒間に何回変わるか)で決まります。エアコンの強弱を変えるには、モータの回転を調節する、つまり、交流電流の周波数を調節する必要があります。それを担っているのがパワーエレクトロニクスを用いた「インバータ」という部品で、エアコンの省エネに役立っています。
電解コンデンサをなくす
発電所から送られてくる電気の周波数は常に一定のため、インバータがないエアコンは同じ強さで動き続けます。温度を調節するにはスイッチをオン・オフするしかありませんが、これだとエネルギー効率がとても悪いのです。
日本ではインバータ・エアコンが普及していますが、発展途上国にとっては高価で、あまり普及していません。そこで低価格のインバータが開発されました。価格を抑えられた理由は、インバータの中にある「電解コンデンサ」という高額な素子をなくしたことです。
発想の転換で開発された回路
交流電流は、1秒間に50回、または60回、電流の向きが入れ替わりますが、入れ替わる一瞬は電流がゼロになります。それを補うために、電解コンデンサに電気を一時的にためておくのです。
しかし発想を変えて、「一瞬ゼロになっても、それを盛り返せばいい」という考え方で、コンデンサのない回路が開発されました。ただし、この回路は海外で使われている200Vの電圧でのみ使えます。日本の電圧は100Vのため、「一瞬ゼロになったあとに盛り返す」には電力が足りないのです。それでも100V用の電解コンデンサを使わないインバータは研究されており、それが完成したら、日本でも低価格の省エネエアコンが使えるようになると期待されています。
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静岡大学工学部 電気電子工学科 教授芳賀 仁 先生
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