死後、自分の意思をどう実現するか 「遺言」を通して考える
遺言とは
生前に築いた財産を、自分の死後、誰にどのぐらい相続させるのかという意思表示の方法を遺言といいます。たとえば自分で遺言を作成し、「遺言書」として残す場合は、本人の手書きで書く、印鑑を押す、日付を書くといった要件が法律で定められています。しかし、現実には印鑑ではなく拇印が押されていたり、日付ではなく「●月吉日」と書かれていたり、あるいは「すべての財産を自分の愛人に残す」といった公序良俗に反するような内容が書かれることもあり、これらの有効性を巡って裁判に発展することもあります。
遺言執行者の役割
遺言は、遺族との関係性やその内容によっては必ずしも実行されるとは限りません。そのため弁護士や銀行関係者など、自分に代わって死後に遺言の内容を実行してくれる人を「遺言執行者」として指定する制度があります。しかし、日本では遺言執行者の役割は必ずしもはっきりしていません。例えば「土地の承継」を実現する場合は不動産登記の変更だけでなく土地の引き渡しまでしなければならないのか、あるいは遺族の要請を受けて遺言を反故(ほご)にしてよいのか、または遺言執行者の判断で遺言の実行の態様を変更してもよいのかなど、未整備な点が多く残されています。
故人が残した意思を実現する
遺言や相続は、法学の分野では家族法に分類されます。遺言書に不備がある場合の判断や、遺言執行者の役割など、これから研究・議論されるべき余地が残されています。そのため、個々の法律が制定された経緯やその背景にある考えの分析、あるいはドイツやフランスといった海外の法律との比較など、研究にかかる期待は小さくありません。また近年は、遺言だけでなく、「信託」という方法で、本人に代わって第三者が財産承継を担うこともあり、注目が集まっています。生きている人の権利や尊厳を守ることだけでなく、亡くなった人の意思をいかに尊重するかを考えることも、法律を学び、研究することの目的の一つなのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
専修大学 法学部 法律学科 准教授 小川 惠 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
民事法学、家族法、相続法先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?