企業はなぜチャレンジングな利益目標を公表するのか?

従業員のメンタルヘルス悪化の原因は?
大手中古車販売会社の不祥事が2023年に話題となりました。この会社では、従業員に達成困難なノルマを与えていました。経営者によるチャレンジングな目標設定は、ときに従業員に過剰な業務負荷を与えます。
なぜ経営者は達成困難な目標設定を行うのでしょうか? 理由の1つは、経営者には困難な目標を達成することで便益が得られるからです。例えば、株価の上昇、報酬の増加、名声の拡大などです。こうした便益を得たい経営者が無謀な目標設定をすることで、従業員の業務負荷が増加します。結果として、従業員のメンタルヘルスが悪化します。
経営者利益予想と従業員のメンタルヘルス
多くの上場企業が経営者利益予想を公表します。投資家は自身の売買行動に予想情報を利用すると言われています。投資家の期待に応えたい経営者は無謀な目標を設定するかもしれません。ただし、目標を達成できないと、株価が下落する可能性があるため、経営者は何としても目標を達成しようとします。
行政が実施した健康経営調査から、メンタルヘルス退職者数と利益予想の関係が分析されました。すると、予想をギリギリ達成した企業ほどメンタルヘルス退職者数が増加していました。経営者による目標達成の動機が従業員の業務負荷の増加につながった可能性があります。
企業側の意図を知ろう!
公表情報には企業側の意図が隠れています。例えば、同じ利益目標100万円を掲げたA社とB社があります。A社は自社の従業員の能力を十分に把握したうえで適切に目標設定し、B社は私的便益の追求のために目標設定したとすると、同じ数値でも目標設定の過程は大きく異なります。
今、環境、社会、ガバナンスなどに適切に配慮した企業に資金提供を行う「ESG投資」が注目を集めています。企業側の意図を見抜ければ、従業員を酷使する企業は将来性が見込めないとして、資金が集まらない可能性があります。企業側の意図を見極めることは、経営者に監視のプレッシャーを与えることにもつながるのです。
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専修大学商学部 会計学科 准教授太田 裕貴 先生
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