海外との共同研究で、塩害に強い稲を作り出す!
塩害に強い稲の研究
土壌に含まれる塩によって作物がよく育たないことを「塩害」といいます。日本には塩害が少ないですが、東日本大震災や能登半島地震の際に田んぼに海水が入り、稲作ができなくなったところもあります。稲は特に塩に弱く、農学の分野では稲の耐塩性を強くする研究が行われています。
稲の葉鞘における遺伝子の動きを探索
研究では、フィリピンの「国際稲研究所」に保存されている何十万という稲の品種の中から約300品種を選び、塩と栄養を与えて実験的に栽培します。塩は稲の根から吸収されて、葉鞘(ようしょう)を通って先端の葉身へと移動します。葉身に塩がたまると、光合成ができなくなって稲は死んでしまいます。こうした実験栽培で生き残った塩に強い稲と、弱い稲それぞれの葉鞘の中で、どのような遺伝子が働いているのかを調べます。葉鞘に塩がたまるようになれば葉身まで塩が移動せず、塩に強い稲となります。
従来は、主に根から塩を吸収しないようにして耐塩性を高める稲の育種が行われてきました。吸収後の挙動をみるこの研究によって、塩に強い稲はなぜ強いのかがわかるだけではなく、海岸に植生している植物がなぜ塩に強いのかがわかるきっかけになることも期待されています。
海外の農家で実証実験も実施
さらに研究室で育成された耐塩性の稲が実際に育つかどうか、フィリピンの農家に協力を得て海岸に近い田んぼで実証実験も行われています。稲を育てるには肥料として窒素が必要ですが、農家では塩害を受けると、経済的損失を避けるために施肥(せひ)が中止されてしまいます。低栄養の土壌では塩の吸収をしないようにする稲の遺伝子がうまく働かず、結果として収量が減ってしまうのです。塩に強い稲も、こうした農家の事情で施肥が行われなければうまく育ちません。このような研究と現場の乖離(かいり)を防ぐために、今後も海外の研究機関や大学と共同研究や実証実験を行いながら、農家が楽に栽培管理することができて、収量を増やすことにつながる、耐塩性がある稲の研究が続けられます。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部 資源生物科学科 植物生理形態学研究室 准教授 三屋 史朗 先生
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