不登校支援から、教育行政のどのような課題がみえるか?
教育行政による不登校支援への着目
今日、不登校の子どもの数は30万人近くいます。そして、彼らを「学校に戻すべき」という意見と、「学校に行かなくていい」「学外に居場所や学びの場がある」という意見が対立しています。
しかし、いずれの意見も「不登校になった子どもをどうするか」という視点で、そもそもなぜ子どもと学校の繋がりが切れやすいのか、根本的原因の解決を図るものではありません。
そこで、教育行政という点で学校と共通する、教育委員会の不登校支援である「教育支援センター(適応指導教室)」が着目されました。そして、社会学の手法を用い、全国に1600程度設置されているセンターを対象に、大規模なアンケート調査と個別のインタビューが実施され、実態が明らかになりました。
教育支援センターにおける包摂の試みと排除の帰結
調査の結果、センターでは、学校との関係が悪化した子どもが受け入れられ、仲裁がなされていました。また、学校が包摂しきれなかった、親の精神疾患や未就労といった重層的な諸困難のなかで非行化した子どもの包摂も試みられていました。ところが子どもの染髪などを注意すると、意図せざる結果として、子ども自らがセンターに来なくなる自己離脱的排除が生じていました。
他方で、注意されても子どもたちが通い続けたのは、福祉主導で子どもと保護者に医療・心理・教育・福祉行政支援を提供し、諸支援の一つにセンターを位置付ける自治体の事例でした。
ここには、既存の学校教育においても、重層的な課題を抱えた保護者と子どもの状況をそのままに、教育サービスを提供しようとすると、学校と子どもたちとの繋がりが切れるという構造的課題があることが示唆されます。
社会学を通じて見えてくる実態
社会学は社会を丹念にひもとく学問です。不登校は「個人の問題」や「個人の選択の結果」だと世間では認識されがちですが、背景にはそのように選択させる教育行政の構造的課題があります。社会学は、その研究を通じて課題の解消をめざしているのです。
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岩手大学 人文社会科学部 人間文化課程 准教授 樋口 くみ子 先生
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