記憶の社会学 社会はどのように過去を記憶するのか
記憶の社会学的な研究
一般的に記憶は個人的なものとして捉えられているため、記憶の研究というと脳や心の働きを分析するようなことをイメージする方が多いのではないかと思います。それに対して、「記憶の社会学」という分野では、社会との関係に注目して記憶について考えます。特に、ある地域に生活する人びとが共通して経験するような大きな出来事が起きたときにその地域の社会はどのようにその出来事を記憶するのかという問いを探究します。そのため、実際にその地域を歩き、そこで起きていることを観察したりそこに生きている人びとに話を聞いたりする社会調査の手法を用いて研究を進めていきます。
社会学の観点から空襲の記憶について考える
第二次世界大戦下の1945年3月10日に、東京の下町地域は東京大空襲と言われる大規模な空襲を受け、10万人以上の方が亡くなりました。それから75年以上が経過する中で、東京は急速な復興と発展を遂げ、現在その被災地域を歩いても空襲の痕跡を見つけることは難しくなっています。それでも、その地域の社会にとって空襲の記憶はとても重要なものであり続けています。現在でも毎年3月10日前後には、その地域に住む人びとによって空襲の体験を語り継ぐ活動や空襲で亡くなった方を慰霊・追悼する行事が行われています。そこには、空襲の記憶と向き合い続ける社会を見ることができます。
空襲の記憶はどのように継承されていくのか
戦後75年以上が経過し、東京大空襲の体験者の高齢化が進んでいます。そのため、体験者が自らの空襲体験を語ることが難しくなってきています。またそれとともに、空襲で家族を亡くした遺族が中心となって執り行われてきた慰霊・追悼行事も継続することが難しくなってきています。そのため、空襲の記憶をどのように次世代へと継承することができるのかが課題となっています。そうした中で近年、戦争を経験していない世代による空襲の記憶継承の取り組みが進められています。空襲の記憶と向き合う社会のあり方は大きく変わりつつあると言えます。
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