文化財保存修復と地域・アートをつないで、未来へ文化を残す

文化財保存修復と地域・アートをつないで、未来へ文化を残す

立体作品ならでは修復の特徴と課題

立体作品の修復は、文化財の中でも特に多岐にわたる分野です。仏像のように古い時代からあるものから、明治時代以降に作られた彫刻、銅像、現代アートに至るまで、さまざまな素材やサイズの作品が含まれます。修復には、表面の絵具を修復するだけでなく、ときにはパーツを分解して再組立てする場合もあります。立体作品は絵画と異なり、屋外や過疎地域、人里離れた山頂に設置されていることもあるため、修復作業には特有の困難が伴います。例えば、修復を始める前に山を登って作品を下ろさなければならないこともあります。また、屋外の大きな作品については、その場で修復を行うこともあります。

文化財を通して地域の文化をつなぐ

仏像やこま犬などの立体作品は、その地域の文化、歴史と深く結びついています。これらの文化財を修復する作業は、単にその文化財そのものの芸術的な価値を回復するだけでなく、地域の歴史文化を未来の世代に伝える上でも極めて重要です。しかし、文化財を長期にわたって保存するためには、修復家が作品を修復するだけでは不十分です。修復そのものは、その文化財全体の歴史の中ではほんの一時的なものに過ぎません。より長期的な視点で見た場合、文化財や地域の歴史文化を維持していくためには、文化財に対する関心を高めて、その保存活動に関わる人々を増やしていけるかが重要だと言えます。

地域とアート、文化財保存修復の取り組み

文化財の保存修復に貢献するには、学芸員として展覧会を企画して、文化財の重要性や地域の歴史文化についての認識を高めることも一つの手段です。地域の仏像を展示して、それに触発されたアート作品を並べることで、新たな視点も得られます。このような取り組みを通じて、アートにしか興味がなかった人々が文化財に目を向け、逆に文化財に関心があった人々にアートについての理解を深めてもらうような相互作用が期待されます。こうした交流は、両分野の魅力を広げて、保存活動における共感と支援を拡大することにつながるはずです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東北芸術工科大学 芸術学部 文化財保存修復学科 准教授 宮本 晶朗 先生

東北芸術工科大学芸術学部 文化財保存修復学科 准教授宮本 晶朗 先生

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保存修復学、立体作品修復、地域文化財

メッセージ

分野を絞らずに、幅広い視野で興味関心を広げていくことをおすすめします。いろいろな分野に興味を持つことで柔軟性が生まれ、時代が変わりどんな状況になっても対応できる力が身につくと思います。その上で、もし文化財の保存修復に興味を持ったなら、修復家だけでなくさまざまな関わり方があります。博物館の学芸員、自治体の文化財担当者、展示ケースや収蔵庫を作る会社、クラウドファンディングなどでの資金マネジメントなど、自分の適性に合わせて、できることを考えてみてもらえたら嬉しいです。

東北芸術工科大学に関心を持ったあなたは

芸術大学進学者は、「創作が好きな人」「才能やセンスがある人」、というのは古い話。皆さんにも「アートやデザインでは食べていけない」と思う人がいるかもしれませんが、今やアートもデザインもゼロから学べる「学問」「教養」で、さまざまな「職業」の入り口です。本学学生の就職率は、全国の芸術大学でトップクラス。また毎年学生数の約20 倍もの求人をいただきます。日々の学びを進路に結び付け、「就職できる芸術大学」です。アート&デザインを生かした仕事に就きたい、プロになりたいと思うのであれば、本学はその近道です。