歴史的建物の修復と保存 その大きな価値
ただ直す、ではない修復という作業
歴史ある建造物の修復は、単純に不具合を直せばいいというものではありません。建物を見に行って測量したり、過去の資料を読み解いたり、修復のための解体を行ったりしていくと、徐々に建物の本質が現れてきます。何百年も存在している建造物はどこかの時代で改造されていることも多く、その履歴を知ることにもなります。改造の痕跡を見て、なぜこのようなことがされたのかを考えつつ建築当時の姿を推測して、場合によっては今ある形を前の時代のものに戻すという判断も必要です。
歴史の流れが具体的に見えてくる
建造物の修復というと文化財に指定されるようなものを思い起こすかもしれませんが、実は文化財ではない、昭和25年以降に建てられた木造住宅、いわゆる「古民家」でも行われています。その際は「宮大工」と呼ばれる伝統技術を継承した専門家が作業を行い、日本独自の建築様式を引き継いでいくのです。また、建物の様相、改造の遍歴などを見ることで、人の営みの変化を知ることもできます。さらに研究の面で言うと、柱などに「○年に誰が建築した」という記録が残っている場合もあります。建築された時代が判明するということは歴史学的、建築史学的にも大きな意味があるのです。
これからも生き続ける日本の伝統技術
ところで、日本は昔から地震の多い国であり、近年では大きな震災にも何度か見舞われました。その際、建築基準法に準じて耐震性を高めたはずの建物でも倒壊してしまったものがあります。一方で、建築基準法ができる以前に伝統建築法で作られた建物は、ゆがむことはあっても倒壊に至る例は少なかったのです。それがいったいなぜなのか、そこは正確にわかっていません。ただそれが事実であり、そのような優れた建築技法を今後も残していくことが重要です。昔の建物がしっかり保存されることは、日本の歴史や文化を途絶えさせないことにもつながり、国としてやらなければいけないことでもあるのです。
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京都美術工芸大学 建築学部 建築学科 准教授 井上 年和 先生
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