”顔の見える野菜”のように建築を考える
職人技術や伝統産業を紡ぐ
建築は実学と言われ、実社会との接点が多い学問です。特に建築設計の分野は、設計者ひとりで完結する世界ではなく、施主がいて、つくる人がいます。さらにその向こうには、素材を生産する人がいて、地域産業が成り立っています。その結果として、風景や街並みが形成され、歴史や文化が醸成されていきます。設計という行為を通じて、多くの人と対峙し、共感しあい、ともに協働していくための大切な視点です。伝統的な技術や産業が衰退していく日本社会の中で、それらを生かし、継承・発展させながら、いかにして経済のサステナビリティ(持続可能性)を創出していくのか、建築設計者の役割は大きいのです。
高まる木材の重要性
日本建築には、古くから木材が用いられ、現代における住宅も木造が主流です。戦後に植林された木が伐採期を迎え、国産木材の普及への取り組みが国の政策として進められています。さらに最近では、幼児や高齢者の施設といった中規模建築物、庁舎やアリーナといった大規模建築物でも木造化が進んでいます。気候変動や自然災害などの課題が世界各地で深刻になる中で、森林・林業・木材産業と建築分野の連携は、二酸化炭素削減といったSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献するものとして期待が高まっています。
ヒト・モノ・コトの繋がり
近代の建築は、鉄・ガラス・コンクリートといった材料とともに発展してきました。近年においては、木材、植物材料(畳・和紙・茅・竹)、左官(土・漆喰)、焼成材料(タイル・レンガ・瓦)、石といった伝統的な自然素材が見直されています。美味しい料理をつくるのと同様、建築設計においても素材の知識は欠かせません。素材はモノかも知れませんが、その向こうにはそれを生産するヒトがいます。素材を知ることは“顔の見える野菜”のように、ヒトとヒトとが繋がっていくことでもあります。ヒトとヒト・モノ・コトの繋がりを大切することは日本の文化です。それら関係性のビジョンをデザインすることも建築設計者の役割なのです。
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先生情報 / 大学情報
京都美術工芸大学 建築学部 建築学科 准教授 根來 宏典 先生
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