未来の多様な宇宙活動を支える「電気推進ロケットエンジン」

未来の多様な宇宙活動を支える「電気推進ロケットエンジン」

「電気推進ロケットエンジン」とは?

JAXAの「はやぶさ2」の成功には、「電気推進ロケットエンジン」が貢献しています。地上からのロケットの打ち上げは、燃料を爆発的に燃やして噴出する力を利用しますが、宇宙空間で人工衛星などを動かすときは「電気推進」という仕組みを使います。
ガスに高エネルギーを与えると電子が分離して、「プラズマ」状態、つまりガスが電気を通す状態になります。そこで起こる電気的な力で、プラズマガスを機外に噴射して進む仕組みが、電気推進ロケットエンジンです。

技術の選択肢を増やす

もし人類の宇宙での生活が実現したら、大量の物資を運ぶ大型輸送船を高速で動かす大出力のエンジンが必要です。また地上の輸送では、自動車、船、飛行機など、燃費や環境影響なども考えて目的に合う手段を選ぶように、将来の宇宙輸送でも多様な選択肢が重要になります。
そうしたニーズを満たすために、電気推進技術の多様化をめざした研究が行われています。そのユニークな点は、未来で使う大型の電気推進エンジンを小型化して、現在使われている小型の宇宙機に応用できることも目標としていることです。

大出力のエンジンを小型化する意味

そうした研究の中で、従来と比べて大出力で大型の「MPDスラスタ」という電気推進ロケットエンジンを、世界最小サイズにすることに成功しました。MPDスラスタは大出力という以外にも、「大きなものから小さなものまで同じ原理で動かせる」「使う燃料を選ばない」「プラズマの電荷を中和する装置が不要」などのメリットがあります。
これを、従来は電気推進ロケットエンジンを載せられなかった小型の宇宙機に応用すれば、性能を向上できます。例えば天体観測用超小型人工衛星なら、観測方向を変えるときに素早く動くことができて、観測精度を上げることができます。そして、小型から大型に変えていくことは簡単にできるため、物資を運ぶ大型輸送船に応用できる技術として、未来の宇宙開発への準備にもなっているのです。

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先生情報 / 大学情報

東京工芸大学 工学部 機械コース 准教授 上野 一磨 先生

東京工芸大学 工学部 機械コース 准教授 上野 一磨 先生

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宇宙電気推進、航空宇宙、プラズマ応用

メッセージ

私が宇宙工学の道を志したときは、宇宙は「夢物語」としかとらえられていない時代でした。それが「はやぶさ」の成功で、宇宙開発への機運が一気に高まり、「宇宙」が仕事になる時代になりました。私の夢に時代が追い付いた気がしました。ですから、「誰もやっていないからやらない」ではなく、「自分だからできる」と信じて、やりたいことに必要な勉強を一生懸命にやってください。たとえ夢とは違った場所に行かざるを得なくなったとしても、勉強したことは何らかのチャンスをつかむ力になります。

東京工芸大学に関心を持ったあなたは

東京工芸大学は 1923(大正 12)年に創設された「小西寫眞(写真)専門学校」を前身とし、創設当初から「テクノロジーとアートを融合した無限大の可能性」を追究してきました。
工学部と芸術学部の 2 学部を有し、工学部は 1 年次に写真とデザインを学ぶことで芸術的なセンスを身につけ、芸術学部はメディアアートを通して工学的な技術を身につけるという、一見相反する両分野を融合させた教育を実践しています。