産業遺産を愉しむことから考える都市の持続可能性

産業遺産を愉しむことから考える都市の持続可能性

工業地帯が生まれ変わる

ドイツ西部のルール地方は、かつてヨーロッパを代表する重工業地帯でした。しかし1970年代以降は工業の衰退とともに多くの工場が閉鎖されていきました。
現在ではそうした建物が「産業遺産」として整備されています。博物館として観光客を集めるだけでなく、公園や文化施設といった地域に開かれた活動の場へと姿を変えています。例えばかつての貯水タンクがスキューバダイビング場に生まれ変わる、地域一帯でドイツ最大級のピアノフェスティバルが開催されるといった具合に、住民の日常のなかで産業遺産を「愉しむ」ための様々な活用がみられます。

「生きたかたち」で引き継ぐ

遺産の典型的な活用には、建物の保存を目的とした博物館としての活用が挙げられます。地域の歴史を伝える上で大事な取組みですが、一方でその遺産が地域の人たちにとってあまり身近でなくなる恐れもあります。ルール地方の産業遺産では、現代の暮らしに合ったかたちで再利用し、地域に根づいた場所として引き継いでいくことが重要視されています。すべてを時が止まったまま保存するのではなく、歴史ある建物を「生きたかたち」で引き継ぐことが、都市の持続可能性につながるのです。

デザインで新しい命を吹き込む

環境汚染などマイナスイメージが強かった工業地帯であっても、今では地元の人が愉しみ、観光客を惹きつけるプラスのイメージへと転換しつつあります。その転換に大きな役割を果たしているのが、建築デザインといえるでしょう。産業遺産ならではの巨大で特徴的な造形を空間的な魅力として捉えなおし、デザインを加えることで、現代にふさわしい活動の場へと生まれ変わらせています。イメージを伝えるSNSやテレビといったメディアの存在も重要です。「映える」イメージがメディアから広まることで、その場所を訪れる人が増え、街や建物に新たな価値が生まれています。こうした新たな力も借りつつ、過去の建物を地域の人たちが誇りを持てる場として育てていくという視点が、これからの都市に求められています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京工芸大学 工学部 建築コース 准教授 香月 歩 先生

東京工芸大学工学部 建築コース 准教授香月 歩 先生

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建築意匠論、都市イメージ論

先生が目指すSDGs

メッセージ

たくさんの場所に出かけて、様々な建物や街並みにふれてみてください。旅行は、ふだんの暮らしとは少し違った景色や建物に出会える、とても良いチャンスです。海外でも国内でも、旅をしていると、自分の暮らしと比べて「ここは同じだな」「ここはまったく違うな」と感じる場面があるはずです。そうした違いや共通点に目を向けることで、建築や都市の面白さに気づくことができると思います。そしてその面白さを、どこでどのように生かしていけるのか、ぜひ考えてみましょう。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京工芸大学に関心を持ったあなたは

東京工芸大学は 1923(大正 12)年に創設された「小西寫眞(写真)専門学校」を前身とし、創設当初から「テクノロジーとアートを融合した無限大の可能性」を追究してきました。
工学部と芸術学部の 2 学部を有し、工学部は 1 年次に写真とデザインを学ぶことで芸術的なセンスを身につけ、芸術学部はメディアアートを通して工学的な技術を身につけるという、一見相反する両分野を融合させた教育を実践しています。