薬なしでがん細胞を倒す! 夢をかなえるハイブリッドリポソーム

副作用ゼロの治療法
がん治療の大きな課題に治療薬の副作用があります。副作用の少ない薬が開発されていますが、誰にでも効くわけではなく、薬剤耐性が発生して効き目が持続しないなどの問題が残っています。
一方、かつては夢物語だった、「薬を使わずに治す」という願いがかなえられる日が近づいています。その主役は「ハイブリッドリポソーム」という脂質二分子膜です。細胞膜の主成分であるリン脂質が集まってできるカプセル状のナノ粒子がリポソームです。このリポソームに界面活性剤を少しだけ加えてサイズを小さくしたものが、ハイブリッドリポソームです。細胞の200分の1以下の大きさで、がん細胞を狙って集まる性質があり、がん細胞に取り込まれます。すると、不思議なことに、がん細胞が自滅(アポトーシス)してしまうのです。
がんを見つけながら治す
ハイブリッドリポソームによるがん治療は、すでに臨床試験が行われ、例えば、悪性リンパ腫の患者に対する臨床試験では、腫瘍が顕著に小さくなり、副作用も全くないという結果が得られています。また、ハイブリッドリポソームに蛍光試薬を加え、がん細胞の検出と治療を同時に行う薬の開発も進行中です。例えば胃がん検査の前にこの蛍光リポソームを投与しておけば、がん部分だけが光って見えるようになります。さらに、蛍光試薬にレーザー光を当てて活性酸素を発生させ、がん細胞を攻撃することもできます。
謎を解いて治療へつなげる
このようにハイブリッドリポソームの効果と安全性は確認されていますが、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。ハイブリッドリポソームがエクソソームなどの生体物質とサイズが類似しているため、がん細胞は区別できずに同時に取り込んでしまう可能性が考えられます。そして、その処理ができずに自滅に至る可能性が考えられており、その検証のための研究が進められています。このメカニズムが明らかになれば、より効果的にがん細胞に届き、少ない量で確実に作用するがん治療法の開発につながると期待されています。
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崇城大学生物生命学部 生物生命学科 助教奥村 真樹 先生
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