人工原子と呼ばれる「量子ドット」で量子コンピュータを作る!
量子コンピュータ用の特別なトランジスタ
現在のコンピュータは、「電圧5V/0V」を「1/0」の数値に当てはめ、「1/0」を切り替えて計算が行われます。この切り替えに、電流の流れをオン/オフできる「トランジスタ」という電子部品が用いられます。
一方、量子コンピュータは、量子力学的な「重ね合わせ」可能な2量子状態を「1/0」に当てはめます。2量子状態に電子を使う場合、1個の電子のスピン方向(アップ/ダウン)に「1/0」を当てはめます。そのため、電流ではなく、電子のスピン(磁気的な性質)を制御できるトランジスタが必要なのです。
電子を1個ずつ制御できる「量子ドット」
そこで、量子コンピュータ用のトランジスタとして、100ナノメートル程度の半導体で作製される「量子ドット」が注目されています。量子ドットは「電子1個を出し入れできる箱」のようなイメージです。
電子は「クーロン力」でお互いに反発してその箱から出ようとしますが、一定のエネルギーを与えると入ります。このことを利用して、量子ドットに1個だけ電子を入れ、その電子のスピン方向を制御するトランジスタとして量子ドットが使えるのです。そして、それをたくさんつなぐことで量子コンピュータが実現します。
しかしたくさんの量子ドットをつなげることは、技術的にとてもむつかしいのです。量子ドット内の電子が、量子力学でいう「重ね合わせ」「絡み合い」という状態を維持できないと計算が止まってしまうのですが、この状態はとても壊れやすいのです。それを解決するために、シリコンやグラフェンなど量子ドットの素材や製法の研究が行われています。
量子ドットは「人工原子」
原子は、原子核の周りにK殻、L殻という電子の軌道を持ちますが、量子ドットにも同じ構造があるため、量子ドットは「人工原子」と呼ばれます。さらに、原子のように結合させた「人工分子」を作る研究も始まっています。
全く新しい概念である人工原子としての量子ドットの研究は、量子物理学を大きく発展させると期待されています。
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日本大学 工学部 電気電子工学科 教授 羽田野 剛司 先生
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