大木を腐らせて枯らすもの それは「悪」なのだろうか

大木を腐らせて枯らすもの それは「悪」なのだろうか

キノコは樹木を腐朽させる

食用としてなじみ深いキノコですが、中には樹木の内部を腐朽させて枯らしてしまうものも存在します。樹木は内部が腐って空洞状態になったとしても、外の薄い層だけで生きてはいます。しかし強度が落ちているために、台風などの際にバタッと倒れてしまうのです。しかもこの病気は感染します。既に感染している樹木に生えたキノコから胞子が飛んで、別の木を病気にするのです。樹木ごと撤去しても菌糸が地面に潜み、新たに植えた樹木に感染する場合もあるようです。見た目では健康な樹木との見分けは付きにくいのですが、キノコが出ていれば確実です。

日本の桜は危機的状況にある

キノコの中でも今、問題となっているのがナラタケの仲間で、桜や広葉樹の根から侵入して根株を腐朽させる原因となっています。しかし、すべてのナラタケの仲間が病気の原因となるわけではなく、無害な種もいます。キノコには同じ種に見えて別の種であるということがよくあるのです。針葉樹に生えるのか、広葉樹に生えるのか、生える時期はいつ頃かなど、総合的に見比べて種類を特定します。
病気になる桜は、傷がついていたり、年を取っていたり、弱っていたりします。一方、ナラタケのほうには元気になる理由があるかもしれません。樹木と菌と環境の関係を見ながら、対処方法を考える必要があります。

樹木の病気は悪いことばかりではない

大気中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給してくれる樹木は、人間にとってプラスの効果をもたらしてくれる大事な存在です。それを枯らしてしまうキノコは一見、悪いもののように思えますが、樹木が病気になり倒れること自体は決して悪いことではありません。森林の中では、古い樹木が倒れることで虫や鳥のすみかになり、後には新しい木が芽生えます。そういう意味では、キノコや病気もまた、自然の循環や再生の中の一部なのです。

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日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 太田 祐子 先生

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森林科学、森林病理学、森林微生物学

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メッセージ

樹木は長いものだと1,000年以上も生きる、巨大で重くて寿命が長い生き物です。じっと動かずただそこにあるようにも思えますが、たくさんの生物や周囲の環境と関わり合いながら生きています。大木をゆっくり腐らせることで樹木の命を終わらせるキノコもまた、そうすることで自らの命をつないでいます。分解が難しい樹木を分解し、他の生き物が食べやすい形に変えているともいえるかもしれません。人間が気づいていないところで、さまざまな命が循環しているのです。そんな見えない世界を観察する面白さを感じてほしいと思います。

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