閉じ込められたら能力発揮! 低次元系での電子のふるまいとは

閉じ込められたら能力発揮! 低次元系での電子のふるまいとは

究極の電流計

通常の物質(導体)では、電子は3次元の空間を自由に動きます。ところが、平面上のみを動ける2次元や、一方向にのみ動ける1次元、全く動けない0次元の空間に閉じ込められた電子は、3次元とは全く異なるふるまいをみせます。このような低次元での電子の性質を、半導体の微細構造を用いてうまく引き出し、応用する研究が行われています
その応用のひとつが、電子1個の流れを検出できる単一電子電流計です。通常の電流計では、少なくとも1万個程度の電子が流れないと測定できません。それに対し、電子を0次元に閉じ込める「量子ドット」と、その中の電子の数の検出する電荷センサを用いることで、1個1個の電子の動きを検出できる単一電子電流計が実現できます。電流測定は電気技術の基本であり、この超高精度な電流計はさまざまな用途が期待されます。

最新のコンピュータは「電子そろばん」?

量子コンピュータは、量子力学によって高速の並列計算ができる未来のコンピュータです。通常のコンピュータの計算では、0と1で表された情報を1個ずつ順番に処理しますが、量子コンピュータでは0と1の情報を確率で表し、すべてをまとめて計算することで速く処理します。この量子コンピュータを、量子ドットを2つ並べた電子のそろばんのようなものを用いて作ることができます。電子がどちらの量子ドットにいるかで0と1を表し、さらに量子力学的に0と1が重なり合った状態を作って確率情報を表します。このモデルは理解しやすいので、量子コンピュータの原理や電子の量子力学的性質を調べるために研究されています。

電子の高速道路

3次元や2次元の空間を多数の電子が動いていると、お互いの衝突や不純物との衝突により、電気抵抗や熱が発生します。しかし、高速道路のように一方通行で電子を流す1次元系では、電子同士は衝突しません。これは抵抗ゼロで熱を発生させずに電流を流すことができるため、高効率な熱電機関につながる量子技術として、研究が進められています。

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先生情報 / 大学情報

東京工業大学 理学院 物理学系 教授 藤澤 利正 先生

東京工業大学 理学院 物理学系 教授 藤澤 利正 先生

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物性物理学、半導体物理学、量子物性物学

メッセージ

自分が面白いと思うものを大切にしてほしいです。科学技術に限らず、音楽でもスポーツでもよいし、理由もなく好きなものでも結構。ぜひ、それをやってみてください。やっていくうちに、さらに面白味が出てくるでしょう。そのうち、なぜ自分はそれが好きになったのか、次第に理由がわかるようになるでしょう。そのようにして人生のキャリアが決まるのかもしれません。
私の場合、近所のオーディオマニアが真空管アンプをいじっている様子に理由もなく見入っていた子供の頃の記憶が、半導体や電子への興味に繋がったのかもしれません。

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東京工業大学は、1881年の創立以来理工系総合大学として時代を切り拓いてきました。2016年には、大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞するなど世界トップレベルの研究を行う大学として高い評価を受けています。現在、本学は日本初となる学部と大学院を統合した「学院」を設置するなど、大きな改革に取り組んでいます。学生が自らの興味に基づいて体系的に学べるカリキュラムを用意するとともに、全ての人がベストパフォーマンスを発揮できる教育・研究環境を実現して、よりよい未来の創造に貢献する人材を育てます。