原子を利用して光を制御すれば、量子力学の世界が見えてくる!
原子を冷却して、光を操る
室温では、気体原子は数百m/s程度、音速くらいの速さで飛び回り、いろいろな波長の光を吸っています。しかし、絶対零度近くまで冷却すると、原子はほぼ静止状態になり、特定の波長の光のみを吸うようになるため、その波長の光を当てれば原子内部の電子の軌道を制御することができます。
逆に言えば、冷却された原子では、電子がエネルギーの高い軌道から低い軌道に移りエネルギーを失うときに吐き出される光の波長が指定されるということになり、このことを利用すれば原子から特定の波長の光を取り出すことができます。
光の粒子が利用できると生まれる新しい技術
原子を用いた光の操作は、光の粒、一粒一粒を取り出す技術の開発につながります。この光の粒を「光子(こうし)」と言い、一粒単位で自在に取り出せるようになると、量子計測や量子コンピュータ、量子暗号通信の技術を実現するのに役立ちます。
例えば量子暗号通信において、光子の一粒一粒に情報をのせて通信するとします。すると、誰かが光子を盗み取って内容を見た後、ひそかにまた元に戻すことはできません。なぜなら、状態が確定していない光子にのせて運んでいた情報は、誰かが見た瞬間に光子の状態が確定することで変化してしまうからです。つまり、量子通信では、情報を盗み見た瞬間にその事実が記録されてしまうのです。
何もないところに何かある! 量子力学の世界
量子力学の世界ではほかにも、古典力学では考えられない不思議な現象が見られます。その一つに、光子が0個の場合でも、光子1/2個分のエネルギーが存在するということがあります。つまり、何もないはずの空間にエネルギーが存在しているのです。そこで、反射率の高い鏡と鏡を向かい合わせて光がその間で往復してほとんど漏れ出さない空間(光共振器)をつくると、光子を取り除いても、まるで光がそこにあるかのような現象が観察できます。こういった量子力学の不思議さをうまく使えれば、今まで難しいとされていたさまざまな技術が実現可能になるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 物理工学プログラム 准教授 丹治 はるか 先生
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