極低温で現れる物質の不思議な特性の研究〜物質の本性〜
超低温での電子の素顔
我々の生活している地球環境、それは宇宙全般の自然界と比較すると極めて特殊な環境であると分かります。空気1気圧、室温(約20℃)、地磁気(約 0.3G)、これは物質の状態を決定する基本的な外場変数の地球上での値です。しかし、一旦地球から出るとそこは真空の世界、さらには平均温度約3Kの漆黒の宇宙空間が広がっています。さて、どちらが自然界の当たり前の姿でしょうか? 物質の「真」の姿、特性を知るには、その物質を極低温まで冷却し、その状況下で特性を調べる必要があります。これは物質中のイオン、あるいは電子自身の熱振動が本性を隠しているため、その効果を著しく下げる必要があるからです。特に物質を構成している素粒子の一つ、電子の集団特性が物質の性質に大きく影響しています。その電子の集団特性を物質特性の一つである「弾性特性(物質の硬さ、柔らかさ)」を調べることで明らかにしようと試みられています。
豆腐、プリンのように柔らかくなる金属
金属に対して、「硬い」というイメージを我々は持っています。実際に地球上の我々の生活圏では概ね正しいと言えるでしょう。でも、温度が変化するとどうなるでしょうか? 物質が変化すると同じ固体の状態の中にも全く様相の異なる性質を持った状態(これを相と言います)が現れるものもあります。希土類元素を含む化合物の中には低温で、豆腐あるいはプリンのように非常に柔らかくなる合金が存在します。
超低温で柔らかくなる不思議な合金
その合金の一例として、希土類元素Eu化合物があります。超低温下において非常に柔らかくなり、磁石の特性も出現します。さらに、これまでは構造が規則的で並進対称性を有する「単結晶」が主な対象でしたが、並進対称性が失われ、回転対称性のみ有する「準結晶」も極低温で柔らかくなることが明らかになってきました。この準結晶における固体中の電子状態についてもさらなる研究が現在進められています。
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