ファウルボールによる観客のケガについて裁判所はどう対応しているか
観客席への飛来物で事故が発生した事件
ファウルボールで観客がケガをした場合、救急治療だけでは治らなかったり後遺症が残ったりすることがあります。観客から球団や球場に対する損害賠償が請求されて、裁判となった事件があります。ファウルボール以外にも、折れたバットや、試合前の練習中のホームランボールが観客席に飛来したという事件もあります。
1件だけ損害賠償が認められた事例がある
最高裁判決はないため統一の判断基準はないのですが、裁判所は基本的に、観客はずっとバッターボックスを見ているべきで、見ていれば飛来物を回避できるはずだ、という考えです。球場に足を運ぶ人々の通常の認識を推測すると、「危険なファウルボールが飛んでくることは周知のことだと考えられるから」です。
公表された事件のうち損害賠償が認められたのは1件だけです。なぜその事件では損害賠償が認められたのでしょうか? それは特殊な事情があったためでした。球団が新しいファン層を獲得するために、学校のPTAを通じて家族を試合に招待する企画がありました。ケガをした観客はそれに応募して子を球場に連れ入った観客でした。ということは、球団は、ファウルボールの危険も含めて野球を知らない人を招待しているのだから、その人がゲガをしないよう(安全な席を案内するなどの)配慮をしなければならない。球団はそれを怠ったから、過失があった。という論理です。
紛争の解決基準を示す民法
臨場感を優先するのか、安全性を優先するのか。どちらも大事だから、それだけを見て価値判断をするのは難しい。そのような水掛け論になってしまいがちです。法律は、そうした問題にも当てはまる解決基準を示しています。もちろん観客の事故の事件のように一刀両断では答えが出ない問題もあります。そうした問題についても、民法の条文を手掛かりに、球場に足を運ぶ人の通常の認識はどうか。その事件の特殊な事情はないか。そうした手堅い推測が可能となります。
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