講義No.14407 法学

ファウルボールによる観客のケガについて裁判所はどう対応しているか

ファウルボールによる観客のケガについて裁判所はどう対応しているか

観客席への飛来物で事故が発生した事件

ファウルボールで観客がケガをした場合、救急治療だけでは治らなかったり後遺症が残ったりすることがあります。観客から球団や球場に対する損害賠償が請求されて、裁判となった事件があります。ファウルボール以外にも、折れたバットや、試合前の練習中のホームランボールが観客席に飛来したという事件もあります。

1件だけ損害賠償が認められた事例がある

最高裁判決はないため統一の判断基準はないのですが、裁判所は基本的に、観客はずっとバッターボックスを見ているべきで、見ていれば飛来物を回避できるはずだ、という考えです。球場に足を運ぶ人々の通常の認識を推測すると、「危険なファウルボールが飛んでくることは周知のことだと考えられるから」です。
公表された事件のうち損害賠償が認められたのは1件だけです。なぜその事件では損害賠償が認められたのでしょうか? それは特殊な事情があったためでした。球団が新しいファン層を獲得するために、学校のPTAを通じて家族を試合に招待する企画がありました。ケガをした観客はそれに応募して子を球場に連れ入った観客でした。ということは、球団は、ファウルボールの危険も含めて野球を知らない人を招待しているのだから、その人がゲガをしないよう(安全な席を案内するなどの)配慮をしなければならない。球団はそれを怠ったから、過失があった。という論理です。

紛争の解決基準を示す民法

臨場感を優先するのか、安全性を優先するのか。どちらも大事だから、それだけを見て価値判断をするのは難しい。そのような水掛け論になってしまいがちです。法律は、そうした問題にも当てはまる解決基準を示しています。もちろん観客の事故の事件のように一刀両断では答えが出ない問題もあります。そうした問題についても、民法の条文を手掛かりに、球場に足を運ぶ人の通常の認識はどうか。その事件の特殊な事情はないか。そうした手堅い推測が可能となります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

福岡大学 法学部  教授 畑中 久彌 先生

福岡大学 法学部 教授 畑中 久彌 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

民事法学

メッセージ

法律学は社会の紛争をルールに基づいて解決していく学問なので、人や社会について関心があり、かつ専門用語に基づいてフォーマルな文章を書くのが好きな人に向いていると思います。法令用語は漢字だし、勉強で文章をたくさん読むので、高校時代は漢字の読み書きと国語をしっかり勉強してきてください。将来の進路として公務員を考えている人は、公務員試験の受験科目として、法学専門科目以外に教養試験もある場合が多いので、高校の5教科をしっかり勉強しておくことをお勧めします。

福岡大学に関心を持ったあなたは

福岡大学は、9学部31学科、在学生2万人を有する総合大学です。多くの学生や教職員が行き交う広大なキャンパスは福岡市の南西部に位置し、都心部との交通の便もよく、活気に満ちあふれています。「ワンキャンパス」に全学部が集結しており、総合大学の魅力を生かし、学問・研究および課外活動などにおいて学部間の交流が盛んに行われ、文系・理系だけにとどまらない幅広く多様な視野と知識を得ることが可能な大学です。また、創立から90周年で輩出した卒業生総数は28万人を超え、あらゆる分野で力を発揮しています。