天然記念物の保存と食文化の復活 九頭竜川の取り組み

天然記念物の保存と食文化の復活 九頭竜川の取り組み

失われつつある地域の魚・文化・環境を守るために

1970年代くらいまでは、福井県の九頭竜川(くずりゅうがわ)には「アラレガコ」という魚がたくさん生息していて、その流域には、アラレガコを捕る伝統的な漁や、アラレガコを食べる食文化がありました。現在、生息環境の悪化などによって稀少になったため、九頭竜川の一部は「アラレガコ生息地」として天然記念物に指定されています。アラレガコを絶滅させないため、また、九頭竜川流域の食文化を守るため、さまざまな研究と取り組みが行われています。

食文化復活に向けた養殖技術の研究

その一つが地域や企業との共同での養殖研究です。アラレガコは川の河口付近の海で産卵し、半年ほど海で成長した後に、川をさかのぼり、川(淡水)で成長します。しかし九頭竜川では数が少なくなったため、アラレガコの食文化は消滅の危機にあります。食文化復活のために、アラレガコの最適な養殖条件を研究し、1年という短い期間で十分な大きさに育つようになりました。この養殖で育てたアラレガコで食文化の復活に取り組まれています。

川の環境を改善して魚のすみかを増やす

もう一つの取り組みは、アラレガコが生息しやすい川の環境の研究です。九頭竜川には、流れを制御する堰(せき)がいくつかつくられていますが、川を上がってくるアラレガコの子供たちは泳ぎが得意でないため、堰を越えて上流に行くことができず、生息できる場所が狭くなっています。そこで、アラレガコが堰を越えて上流に行くことができる魚道を設置する研究が行われています。
また養殖で育ててきた魚では、天然の魚とは性格や生態的・遺伝的な特徴が異なることがあります。養殖したものを川に戻した時の生態系への影響を考慮して、現在は養殖魚の放流で個体数を増やすのは、危機的なまでに数が減少したときの最終手段と考えられています。そのため、養殖だけではなく、洪水防止や農業用水のために必要な堰と魚が生息しやすい川の環境との両立が、稀少な魚であるアラレガコの保護のために重要なのです。

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福井県立大学 海洋生物資源学部 先端増養殖科学科 教授 田原 大輔 先生

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