なぜ、戦前の日本は「カルテル」を推奨したのか?

なぜ、戦前の日本は「カルテル」を推奨したのか?

現在は違法で、戦前は推奨された価格・数量の協定

ニュースなどで「カルテル」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。カルテルは、複数の企業が価格や販売量などを申し合わせる協定のことです。消費者は企業間で決められた価格で商品やサービスを購入しないといけなくなるため、現在では法律(独占禁止法)で禁止されています。ところが、第二次世界大戦の終結(1945年)以前、日本政府は、産業界にカルテルを推奨もしくは黙認していたのです。それはなぜでしょうか。

日本政府の狙いは、石炭価格の安定化

日本の主力産業といえば、現在はIT関連や自動車ですが、1920年代の主力産業は石炭や繊維でした。主に明治時代から採掘が始まった石炭の需要は非常に伸びましたが、第一次世界大戦後には石炭の供給が過剰になりました。そこで業界は、石炭の価格を安定させるため、市場に供出する石炭の数量の協定(カルテルの結成)をはかりました。その理由は、石炭が高価になりすぎると石炭を買う企業や消費者が困るからであり、反対に低価になりすぎると石炭会社の収益が下がり、労働者の解雇につながりかねないからです。石炭会社の中でカルテルを破る会社が出ないように、鉄道で運搬する石炭量を互いに監視し合うことによって、炭鉱会社は、カルテルを安定させようとました。

時代の中で、価値観は動いている

カルテルには「価格の安定化」以外にもいくつかの長所が期待されました。企業同士で情報が共有されるので、技術のノウハウが共有され、業界全体での技術革新につながる可能性がありました。企業も安定した経営ができるので、労働者の雇用を維持できると考えました。しかし、第二次世界大戦後は、「カルテルは市場を歪める」と考える趨勢(すうせい)によって、世界的にカルテルを禁止する流れになりました。このように歴史の中で価値観は1つではなく、時代の流れとともに変遷していくことが見て取れます。経済史は、経済の起源を探り、現在の常識を問う学問であります。

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和歌山大学 経済学部 経済学科 教授 長廣 利崇 先生

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歴史といえば、経済学部でも経済史、法学部でも政治史などを学ぶことができます。本学の経済学部は、歴史に造詣の深い教員が多数在籍し、経営学なども学びながら、幅広く経済活動を学べるカリキュラムとなっています。経済学と歴史学の視点を持つことで、新しい社会の見方ができるようになるでしょう。しかし、学問から離れた時には、利益や経済活動を優先することだけではなく、ぜひ自分にとって何が「成功」なのかを探求してみてください。これは経済学者ではなく、一人の人間として私が思うことです。

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