遠隔手術も夢ではない? ロボットを使ったがん手術で患者を救う
がんの再発を防ぐために
がん手術はかつて、お腹を大きく開いて臓器やがん周囲の組織をまるごと取り除く方法が主流でした。しかし時代の流れにより、切除部分や傷を小さくするような手術が求められるようになります。このように患者へのダメージを小さくして行う手術が「低侵襲(ていしんしゅう)手術」です。1990年代からは、大腸がんや胃がんの低侵襲手術が世界的に試されました。このとき役立ったのがドイツで開発された、内視鏡外科手術の先駆けとなる器械です。
低侵襲手術の重要性
内視鏡やロボットを使った手術は、患者の身体への負担が少なくなるほか、合併症による身体の侵襲が減れば、がんの再発も防止できると考えられています。内視鏡があれば、体にあける穴が小さくても、体内を鮮明に見ることが可能です。また、ロボットは人間以上に関節を自由に動かせるため、周辺の臓器を巧みに乗り越え、必要な部分にだけ触れることができます。ロボットの導入前は手術に必要なスペースを確保するために、患部の手前にある臓器を強く押さえ込む必要がありました。これが原因で起こる合併症も確認されています。合併症は、がんの再発率を上げる原因のひとつです。機械を使った低侵襲のがん手術は合併症の発生率が低くなり、合併症による身体の侵襲が減れば患者の生存率が高まるのです。
低侵襲手術によるがん再発率の低下は臨床現場の統計では明らかになりつつありますが、科学的にはまだ証明されていません。そこでがんの症状を持つマウスに低侵襲手術を施し、がんの転移や進行への影響が研究されています。
遠隔で手術ができる時代が来る?
がん手術に導入できる技術として、ロボットによる遠隔手術もあります。ロボットは、戦場にいる兵士を本土から治療することを目的にアメリカで開発されましたが、通信速度が不十分で動作に遅延が発生し、実用化には至りませんでした。この課題は5Gや6Gの登場によってクリアできるといわれています。ロボットで低侵襲の遠隔手術が実現する時代は、もう目の前まで迫っているのです。
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金沢大学 医薬保健学域 医学類 教授 稲木 紀幸 先生
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