「糖鎖」の森に分け入って、生命現象の解明に挑む!

第3の「生命の鎖」
タンパク質、核酸に次ぐ第3の「生命の鎖」、それが「糖鎖」です。糖鎖は単糖が鎖状につながって細胞の表面を森のように覆い、特徴的な構造を作って「細胞の顔」としての役割を果たしています。例えばABO式の血液型は赤血球表面の糖鎖の違いによるもので、がん細胞の糖鎖も正常細胞とは異なります。
糖鎖は細胞表面に存在するほか、細胞内のタンパク質を修飾するなど、広く生命活動に関わる重要な生体分子です。その構造の複雑さや、生合成の機構がセントラルドグマから外れていることなどから、タンパク質や核酸に比べて解析が遅れていましたが、近年、質量分析精度の向上により研究が加速しています。
脳の機能にも深く関わる糖鎖
シアル酸は糖鎖を構成する単糖の一つで、自己・非自己の識別などさまざまな役割を担っています。シアル酸が8~400個つながったポリシアル酸は、脳の神経細胞接着分子(NCAM)というタンパク質だけを修飾するユニークな構造です。胎児のNCAMを100%修飾するポリシアル酸は成人になるとほとんど消失しますが、海馬や嗅球などには存在し続けるため、脳の可塑性(やわらかさ)に関係があると考えられます。またポリシアル酸は体積が大きく、細胞間が密着しすぎないようにする働きを持つとともに、成長因子や神経伝達物質を自らに結合させておき、必要なときに受容体に提示する機能もあることがわかってきました。
さらに、遺伝的、環境的要因によるポリシアル酸の異常が精神疾患に関与する可能性が示唆され、新しい精神疾患の治療法につながると期待されます。
頭の良さに関係する?
いろいろな生物種が持つポリシアル酸の量とEQ(脳化指数)について調べると、この二つは相関関係にあることがわかりました。また霊長類に共通するポリシアル酸合成酵素の遺伝子についてみると、ヒトの遺伝子のみ1カ所が変異しており、その結果、高機能化したポリシアル酸を獲得したと考えられます。ポリシアル酸は頭の良さの指標になるかもしれません。
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名古屋大学農学部 応用生命科学科 糖鎖生命科学 教授佐藤 ちひろ 先生
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先生への質問
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