講義No.14520 生物学 医学

「糖鎖」の森に分け入って、生命現象の解明に挑む!

「糖鎖」の森に分け入って、生命現象の解明に挑む!

第3の「生命の鎖」

タンパク質、核酸に次ぐ第3の「生命の鎖」、それが「糖鎖」です。糖鎖は単糖が鎖状につながって細胞の表面を森のように覆い、特徴的な構造を作って「細胞の顔」としての役割を果たしています。例えばABO式の血液型は赤血球表面の糖鎖の違いによるもので、がん細胞の糖鎖も正常細胞とは異なります。
糖鎖は細胞表面に存在するほか、細胞内のタンパク質を修飾するなど、広く生命活動に関わる重要な生体分子です。その構造の複雑さや、生合成の機構がセントラルドグマから外れていることなどから、タンパク質や核酸に比べて解析が遅れていましたが、近年、質量分析精度の向上により研究が加速しています。

脳の機能にも深く関わる糖鎖

シアル酸は糖鎖を構成する単糖の一つで、自己・非自己の識別などさまざまな役割を担っています。シアル酸が8~400個つながったポリシアル酸は、脳の神経細胞接着分子(NCAM)というタンパク質だけを修飾するユニークな構造です。胎児のNCAMを100%修飾するポリシアル酸は成人になるとほとんど消失しますが、海馬や嗅球などには存在し続けるため、脳の可塑性(やわらかさ)に関係があると考えられます。またポリシアル酸は体積が大きく、細胞間が密着しすぎないようにする働きを持つとともに、成長因子や神経伝達物質を自らに結合させておき、必要なときに受容体に提示する機能もあることがわかってきました。
さらに、遺伝的、環境的要因によるポリシアル酸の異常が精神疾患に関与する可能性が示唆され、新しい精神疾患の治療法につながると期待されます。

頭の良さに関係する?

いろいろな生物種が持つポリシアル酸の量とEQ(脳化指数)について調べると、この二つは相関関係にあることがわかりました。また霊長類に共通するポリシアル酸合成酵素の遺伝子についてみると、ヒトの遺伝子のみ1カ所が変異しており、その結果、高機能化したポリシアル酸を獲得したと考えられます。ポリシアル酸は頭の良さの指標になるかもしれません。

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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 農学部 応用生命科学科 糖鎖生命科学 教授 佐藤 ちひろ 先生

名古屋大学農学部 応用生命科学科 糖鎖生命科学 教授佐藤 ちひろ 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

糖鎖生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

知識を得るということは非常に重要で、例えば糖鎖について知らなければ、細胞表面やタンパク質が糖鎖に覆われているなど想像もできません。研究の世界は、知識を得ることによって、それまで見えていた景色が大きく変わるような体験ができるところだと知ってほしいです。そして、人知れずすごい働きをしている分子がたくさんあることを想像してみてください。糖鎖の研究はまだあまり進んでいない分、大発見のチャンスにあふれた分野だといえます。糖鎖研究の最先端の本学で、ぜひ一緒に研究しましょう。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。