講義No.15005 数学

代数学でブレークスルーを! 「グレブナー基底」ができること

代数学でブレークスルーを! 「グレブナー基底」ができること

代数学をほかの分野に応用

数学には大きく分けて、純粋数学と応用数学という分野があります。純粋数学が数や図形の性質そのものを解き明かすのに対し、応用数学は科学技術に使われる分野です。
しかし近年では、純粋数学が現実の問題解決に応用されるケースが増えています。xやyなど文字を使った式を扱う「代数学」は純粋数学に分類されますが、これをほかの分野に応用し、ひいては科学技術の発展に結びつけようという研究が進んでいます。さまざまな問題を、文字を使った多変数多項式の連立方程式で表わして、それを解くことで問題解決しようというアプローチです。

複雑な方程式を解きやすくするツール

このときに使われる重要なツールが、特定の性質を持った多変数多項式の集合である「グレブナー基底」です。約60年前に発明されたもので、「ある多変数多項式をグレブナー基底に含まれるいくつかの多変数多項式で割り算すると、最終的に余りが必ず同じになる」という性質を持っています。これを使うと連立方程式から変数を消去することができて、解を計算しやすくなるのです。
例えば、このグレブナー基底を幾何学に応用することで、多面体の体積を求める解法が開発されています。多面体の頂点を座標で表わして多変数多項式をつくり、よいグレブナー基底を構成できれば、体積が同じであるようないくつかの四面体でうまく分割することができるため、四面体の個数を数えるだけで体積がわかります。

問題解決にブレークスルーを

グレブナー基底はすでに、多くの数式処理ソフトウエアに組み込まれています。また、最適化問題や統計学、デジタル通信の暗号への応用の研究も進んでいます。
こうした代数学の応用は、問題解決の「ブレークスルー」を起こす可能性が高いと考えられています。別の分野の問題を代数学的に表してみることで、背後にあるこれまで知られていなかった数学的な構造がわかるようになるからです。その構造に基づいた新しい解法が、行き詰っている問題を突破する可能性があると期待されているのです。

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先生情報 / 大学情報

関西学院大学 理学部 数理科学科 教授 大杉 英史 先生

関西学院大学理学部 数理科学科 教授大杉 英史 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

数学、代数学、応用数学、統計数学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は高校の時に一番好きで得意な科目が数学でした。でも、公式に当てはめるとか、手順通りに計算するといった高校数学にあまり魅力を感じられず、大学受験では物理学科を志望しました。しかし偶然、数学科に入学し、大学に入ってから数学の奥深さに気づいて数学の世界に没頭しました。あなたも好きな科目、得意な科目があると思いますが、高校で習うことがすべてではありません。進路を迷っているなら、今、勉強していることの先に何があるか、専門的な本や雑誌を読んだりして調べてみたら、やりたいことがわかるかもしれせません。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

関西学院大学に関心を持ったあなたは

スクールモットーである"Mastery for Service"は、「奉仕のための練達」と訳され、関西学院の人間として目指すべき姿を示しています。1889年にアメリカ人宣教師W.R.ランバスによって創立された関西学院は、このスクールモットーを体現する、世界市民を育むことを使命とし、現在、関西学院の3つのキャンパスでは、約2万人の学生が個性あふれる14学部で学んでいます。2021年4月からKSC(神戸三田キャンパス)は文系の総合政策学部と理系の理、工、生命環境、建築学部の5学部体制となりました。