時間変化を数学でとらえる 力学系の世界

時間とともに変化するものを扱う
数学の中に、時間とともに状態が変化する現象を扱う「力学系」という分野があります。例えば、惑星の運動、化学反応の時間変化、生物の個体数の増減などがその対象です。力学系という名前がついていますが、物理の力学とは異なり、英語では「dynamical systems」と呼ばれます。
時間変化を記述する方程式には原理的に解けないものも多くありますが、その場合でも「どんな動きをする傾向があるか」といった解の定性的な性質を調べることはできます。力学系は、方程式が具体的に解けないときでも「解の持つ定性的な性質」を位相幾何学などの手法を用いて調べる分野であり、「純粋数学」と「応用数学」の両方に関わっています。
神経パルスは方程式で記述できる
力学系は生物の仕組み解明にも役立ちます。例えば、神経は「電位の高い部分(パルス)」が生じ、それが伝わることで情報を運びます。この「神経のパルス伝達」を記述する方程式が提案されているのですが、その方程式が現象を正確に表現しているためには、パルスに対応する解があるだけでは不十分です。体内で神経がさまざまな雑音にさらされるにもかかわらず、信号が崩れずに届くためには、パルスに対応する解には「雑音に対する安定性」が必要なのですが、この安定性は数学的に証明されています。
宇宙ステーションはここに置け
天体が3つあるときの軌道の安定性や、宇宙空間に浮かぶ宇宙ステーションが安定してその場所にとどまれるかどうかも、力学系の考え方で分析されています。例えば、地球と太陽の軌道の近くには「ラグランジュ点」という特別な位置があり、そこには物体が軌道を外れずに安定して留まれることが数学的に証明されています。他の惑星の引力の影響や、隕石(いんせき)の衝突などがあっても軌道が大きく変わってしまうことはないため、宇宙ステーションを置く理想的な場所なのです。
力学系研究の応用範囲は驚くほど広く、物理学、生物学のみならず、化学反応、経済学のモデルとしても用いられます。
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