花の中の駆け引きをのぞき見して、命の仕組みを解き明かす!

花の中の駆け引きをのぞき見して、命の仕組みを解き明かす!

さやに同じ数の豆が入っている理由

枝豆のさやには、たいてい3粒の豆が入っています。これには、花を咲かせて次世代に命をつなぐ植物の、神秘の仕組みが働いています。めしべの根元にはメスのゲノムを持つ「胚珠」が一定数ありますが、そのすべてに「花粉」の中のオスのゲノムが届きます。つまり、オスとメスが一対一で出会える仕組みが植物に備わっているため、必ず決まった数の種子ができるのです。
花が咲いて、めしべの先に花粉がつくと、オスのゲノムを運ぶ「花粉管」が花粉から胚珠に向かってめしべの中を伸びていきます。そのとき、花粉管を誘引する物質がメスゲノムを持つ胚珠から分泌されます。そして花粉管の先が胚珠の近くまで来ると、今度は花粉管を拒否する反発シグナルを出して、2本目の花粉管をほかの胚珠に向かわせる仕組みが発動します。

オスとメスの絶妙な駆け引き

このような、花の中で繰り広げられるオスとメスの駆け引きの仕組みが解明できたのは、植物の中を詳細に観察する方法が開発できたからです。その一つが、2光子励起顕微鏡という「植物に傷をつけない」イメージング法です。これを使って、シロイヌナズナという植物で、何本もの花粉管が伸びていく様子を世界で初めて生きたまま撮影することに成功しました。
また、植物を透明化する薬剤が開発されて、組織の構造を壊さずに花の内部を細胞レベルで観察できるようになりました。

花粉のゲノム編集で品種改良

花粉の研究から派生して、簡単に品種改良を行う方法の開発も進んでいます。従来の方法は、植物に感染する細菌に編集したゲノムを忍び込ませて、その細菌が自分の遺伝子の一部を植物に組み込む性質を利用していました。しかしこの方法は、植物を培養する期間が必要なこと、有害な変異を持つ個体が生まれる可能性もあることなどが問題になっていました。そこで、ゲノム編集した花粉をめしべにつけることで、短期間に、確実に狙った機能を持つ植物を生み出す研究が進んでいます。このような花粉の研究が、農業の発展にも役立つのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所  助教 水多 陽子 先生

名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 助教 水多 陽子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

植物生物学、遺伝育種科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

地球にはたくさんの生命が満ちあふれています。足元の小さな花をじっくり見たことはありますか?  なぜその花がそこにあるのか考えたことは? 最近、はっとするような驚きはありましたか? 生き物たちの壮大ないのちのドラマを、自分の目で見て、考えて、自らの手で解き明かすことは、とてもワクワクするプロセスです。生物の分野でなくとも、自分で選んだ道ならそれが「正解」です。好奇心と探究心を忘れなければ、いつでもワクワクするような謎と発見が待っています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。