化学物質は「謎解き」のヒントに溢れている
毒がヒトの役に立つ?
フグ毒や植物のケシから採取されるモルヒネ、ある種のカビから抽出されるペニシリンなど、植物や動物、微生物が作り出す化学物質は数多く存在します。そこからまだ見つかっていない新しい化学物質を見つけ、その仕組みや働きを明らかにしていくのが天然物化学です。
天然物化学では植物や微生物が扱われることが多いですが、動物にもユニークな化学物質を持つ種が存在します。例えばある種のモグラは唾液に毒を持っており、噛み付くことで餌となる生き物の動きをまひさせて捕食します。この神経毒の成分や働きが判明すれば、その一部を作り替えることで人の役に立つ物質、薬などの開発につなげていくことができます。これはケミカルバイオロジーと呼ばれる分野であり、現在積極的に研究が行われています。
新しい知見につながる化学物質というヒント
架空の例として、ある生き物からおもしろい化学物質を見つけたとしましょう。その成分などを調査するのはもちろんですが、それはその生き物の生物としての仕組みや生態を理解することに役立つことも考えられます。例えば、同じ種でも毒を持つ生き物と持たない生き物がおり、それぞれの環境で有利に働いたり不利に働いたりします。このように、目に見えない化学物質という一つのヒントが、さらに広域な、あるいは別の研究へとつながる可能性は大いにあるのです。
化学物質という視点から自然そのものを見つめる
生き物の持つ化学物質に注目した研究は、視点を変えれば地球環境を良くしていくことにも役立てられます。生き物が生息している場所の環境が変化した場合、生き物の持つ化学物質にどう変化が出るのかわかれば、気候変動などによる環境への影響度をはかることができるかもしれません。化学物質の解明を行うことで、環境変動を抑えるような役割をする「何か」を発見できるかもしれないのです。
化学物質の「わからない」を広い視野から捉え、解明していくことは、命あるすべてのもの、そして地球にも影響を与え続けていくと考えられます。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部 応用生命科学科 天然物ケミカルバイオロジー研究室 教授 北 将樹 先生
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