森林の一斉開花はなぜ起こる? 森が織りなす生命の神秘に迫る
一斉開花は生き残り戦略
東南アジアの低地熱帯林では、数年に一度、多数の樹種が一斉に花を咲かせて果実をつける現象が観察されます。この一斉開花・結実は、種子の食害を減らすための進化戦略と考えられています。一斉に大量の種子をつけることで食害率が低下して、より多くの種子を生き残らせられるからです。
同様の戦略は、同一種の樹木でも見られます。例えば、どんぐりをつけるはブナ科樹木には豊作の年の年と不作の年があります。不作により敵が減ったところで、大量の果実をつけるのです。同様に、ササの一種・スズタケは120年に一度、一斉に花を咲かせた後、その種子を大量に落として、食べ残された種子が次の世代を育みます。自然の中で生き残るための巧妙な戦略なのです。
森林の動きをとらえる
森林生態学の研究では、樹木の成長や枯死、開花、結実など、森林の「動き」をとらえることが重要です。動きの解明には、樹木と送粉者・捕食者との関係を知ることも欠かせません。一斉開花についても、食害率の低下だけでなく、花粉を運ぶ昆虫を効率的に引き寄せられることがわかっています。また、熱帯林は多様性が高いため、従来は植物と種子食昆虫の間に1対1の関係性があると考えられていました。調査の結果、実際には多対多で、しかも年によって変化することが明らかになっています。
未来を予測する
森林の動きは、気象条件や人為的な影響などさまざまな要因によって左右されます。動きと要因の関係の解明も重要であり、特に、温暖化が進行する中で、どの森林がどのように変化するかを予測することが求められています。具体的には、温暖化の影響でCO₂の吸収能力がどう変わるか、どの樹種が最も影響を受けやすいかを明らかにするといったことです。
森林生態学の研究においては、現地での詳細なデータ収集が必要です。3,000本以上の樹木を対象に調査することも珍しくありません。樹木の寿命は長く、森林の寿命はさらに遠大です。時には人の寿命を超える長期間の研究が必要とされることもあります。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部 生物環境科学科 森林生態学研究室 准教授 中川 弥智子 先生
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