「糖尿病」の克服から、植物の進化はスタートした
CO₂が多すぎるとどうなるか
植物は光合成をすることで、生きています。大気中のCO₂を取り込み、光エネルギーを使って、水とCO₂を反応させます。この反応によりエネルギー源となる糖類(炭水化物)を作り出すのです。それなら仮に地球温暖化が進み、大気中のCO₂濃度がどんどん高くなっていけば、植物にとっては暮らしやすい環境になると考えてよいのでしょうか? いえ、決してそんなことはありません。「過ぎたるは及ばざるがごとし」という諺(ことわざ)があります。CO₂が増えすぎた環境は、植物にとってよいものではなくなるのです。
植物も、人間のような糖尿病になる!?
CO₂が過剰にある環境を人工的に作り、そこで植物を育てるとどうなるでしょう。細胞を調べてみると、タンパク質がダメージを受けていました。そのダメージは植物の体内に活性酸素ができたときのものと似ていますが、活性酸素は見当たりません。詳しく調べると人の「糖尿病」のような病態です。そこで「植物も糖尿病になる」と仮説を立てると、納得の行く説明ができたのです。
大量にCO₂がある環境で、光合成が盛んに行われると、細胞の中に糖が多くでき過ぎてしまいます。すると反応性に富む変種の糖「糖アルデヒド」が混ざる確率が高まります。この糖アルデヒドが悪さをしてタンパク質の機能を低下させるのです。
糖アルデヒドの問題を解決するシステム
植物が生育する上で、光やCO₂がたくさんあることは、本来なら好条件となるはずです。好条件が、逆に命取りになる危険性を、植物はどうやって克服したのでしょうか。光合成の起源は、数十億年前のラン藻にさかのぼります。実はラン藻は既に、糖アルデヒドを無毒化するシステムを持っていたのです。糖尿病の問題を解決できたからこそ、植物は安心して光合成を行えるのです。過剰に糖分が作り出された場合の対応策がなければ、そもそも光合成というメカニズム自体が生まれなかったと考えられています。
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