元気な男性高齢者に、なぜ作業療法士のサポートが必要?

その人が価値を置く作業の支援
例えば手の不自由な人が「娘のためにおにぎりを握りたい」と言った時に、作業療法では、手の障害に目を向けるのではなく、今の状態でおにぎりを握る方法や道具を一緒に考えていきます。作業療法で支援する「作業」は、トイレや食事といった生活上必要な活動だけではなく、その人が価値を置いているすべての活動です。作業療法士は、雑談をしている雰囲気で、困りごとをもう少し深く認識してもらうような語りかけをするなど、相手の意識変革を促して、その人が重要だと思っている活動を生活の中に組み込むためのサポートをしています。
社会的孤立を防ぐ
近年は、困りごとを抱える人だけでなく、健康な人に向けた予防的作業療法の取り組みも行われています。例えば、地域の中では、退職後の男性高齢者が「社会的孤立」に陥りやすいと言われています。たくさんの人と交流がある中で「一人になりたい」とか「一人でいるのが好き」と思うこととは異なり、他者とのつながりがない生活は、飲酒や喫煙と同様に健康を害する要因になることがわかっています。そのため、「元気な男性高齢者が生活の中で人とのつながりをつくることで社会的孤立を予防するプログラム」の開発が行われています。
関心ごとから人とつながる生活に
このプログラムでは、男性高齢者を対象に週1回のペースで3カ月間講座を実施します。参加者は「ずっと家にいて何をしたいのかわからない」という人が多いため、まず生活スケジュールを書き出して、作業療法士と一緒に「やりたくないこと」「優先順位が低いこと」の分析をします。また「興味関心チェックリスト」を使って、かつてやっていた得意なこと、好奇心がくすぐられる活動などを掘り下げて、その人が価値を置くことを中心に、生活を組み立て直していきます。終了後の調査では、参加者に「生活を変えなきゃ」という意識が高まることがわかっており、中には実際に地域活動を始めた人がいるなど、目に見える効果も出てきています。
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