精神疾患があっても、地域で共に暮らす社会
誰にでも起こり得る精神疾患
心の健康と不健康の線引きは、どこにあるでしょうか? テストの前になるとつらくなったり、わけもなく気分がふさいだりすることは誰にでもあることです。多くの場合は、別の楽しいことでストレスが解消されたり、周りの人に相談したりして、危機的な状況には陥らずに回復していきます。しかし、不安が長期間続き、強いストレスがかかると治療が必要になる場合もあります。これはどんな人にも起こり得ることであり、例えば代表的な精神疾患である統合失調症は約100人に1人が発症し、若い世代での発症が多いというデータがあります。
精神科病院を廃止したイタリア
イタリアでは1970年代に、一人の医師が「精神疾患患者は入院しているとよけいに状態が悪化する」と主張し、その後全土で精神科病院がすべて廃止されました。現在は、地域で生活しながら適切な治療やリハビリテーションを受けることができます。日中は軽作業をしたり、デイケア施設で同じ病気の仲間たちと一緒に過ごしたりし、万一症状が悪化したら地域の精神保健センターで適切な治療や投薬を受けます。このように地域に居場所づくりがされることで、精神疾患があっても入院せずに住み慣れた地域で暮らすことができます。
住み慣れた地域でともに暮らせる社会の実現を
一方、日本ではこれまでいったん精神科に入院すると長期間入院し続けることが多く、すでに症状は治まっていても、地域の受け皿がないために退院できないケースもあります。入院が長期に及ぶほど、生活能力は損なわれ、社会とは隔絶していきます。要因の一つに、日本の精神科病院のほとんどが民間経営であるために一斉の改革が難しいことが挙げられます。加えて、人々の精神疾患患者に対する偏見があります。地域の中に精神障害のある人のための施設を造ろうとしても住民の反対が起きやすいのです。精神疾患は誰にでも起こり得る病気です。共に生きる社会の実現のために、誰もが「自分事」として考えていかなければならない課題です。
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先生情報 / 大学情報
新潟県立看護大学 看護学部 地域生活看護学領域 精神看護学 教授 谷本 千恵 先生
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