鉄よりも硬い金属を複雑に加工できる「放電加工」の世界
雷を起こしながら硬い金属を加工する
物を大量生産する際、多くの場合、金型と呼ばれる型が使われます。金型を作る際には、鉄よりもさらに硬い超硬合金が多く使われるのですが、それを加工するために「放電加工」という技術が使われています。放電加工は、第二次世界大戦の頃、旧ソ連のラザレンコ夫妻が発明した、金属を電気エネルギーによって加工するという技術です。銅などの電極を使い、1秒間に数万発の雷を人工的に起こして、少しずつ金属を溶かしながら形を作っていきます。
ドリルなどの切削工具では、自分よりも硬い素材は加工できませんが、雷に硬さは関係ないため、ドリルにはできない超硬合金の加工ができるのです。
10ミクロンの小さな穴も開けられる
放電加工は、硬いものだけではなく、細かい加工も得意としています。一番小さなものでは、10ミクロン(1ミリメートルの100分の1)の大きさの穴を開けることが可能です。レーザーやドリルも技術は進化してきていますが、これほど小さい穴を開けることはできません。こうした特性を生かして、車のガソリンの噴射ノズルやインクジェットプリンターのノズルなどの加工にこの技術が使われています。
開発された当初は電極の摩耗が課題でしたが、最近は電極の消耗を抑えたまま加工ができる「ワイヤーカット放電加工」もあり、普及してきています。また、放電する際に表面の素材が溶けて、別の素材と混ざることを利用した表面改質というコーティング技術を使い、航空機の部品にも応用されています。
メカニズムを解明して、弱点の解消を
放電加工は万能な技術にも見えますが、エネルギー効率が悪く、作業スピードが遅いという弱点があります。また、放電した際に材料がどのように溶け、どのように飛散しているかというメカニズムもわかっていません。ハイスピードカメラでも、細部まで鮮明な撮影ができないのです。もし、こうしたメカニズムがわかれば、スピードアップが可能になり、まさに万能となるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 教授 谷 貴幸 先生
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