タンパク質の構造解析 課題は試料の作り方
X線や中性子線でタンパク質の立体構造を解析
生物の機能原理を知るには、生物を構成するタンパク質の立体構造を原子レベルで知ることが必要です。そこで使われるのが、X線や中性子線といった放射線を利用した解析装置です。これらの装置を利用してタンパク質の構造を明らかにするには、まず対象であるタンパク質を結晶化します。X線は、試料の原子内の電子に当たって散乱や回折(散乱したX線同士が強め合う)を起こすため、電子の数が少ない水素原子以外の位置が容易にわかります。中性子線の場合は原子核に入り、中の中性子を追い出し、その像から水素原子を含めた原子核の位置がわかります。ですので、X線と中性子線では違う情報が得られます。
キューティクルが合成される過程
例えば、毛髪の外側にあるキューティクルという組織がいかに形成されるかを分析する場合に、X線解析装置が使われます。S100A3という二量体のタンパク質がPADという酵素によって翻訳後修飾されることで、カルシウム等を結合しながら四量体になり、それが集合して角化したものがキューティクルです。S100A3単独の構造はX線を使って明らかにされましたが、四量体の構造はまだ明らかになっていません。最終形の構造がわからないため、その過程もわかりません。特に、変化する過程を維持して結晶化するのは難しく、それが分析を難しくしています。
光合成の色素の合成メカニズム
一方、中性子線解析装置はシアノバクテリアという生物の光合成で使われる色素の合成メカニズムを明らかにするために利用されています。この色素はある酵素によって合成されますが、その反応メカニズムを詳しく明らかにするには、電子と水素イオンの移動を知ることが必要です。X線では水素を見るのが難しく、中性子線解析装置で分析します。ただ、中性子線解析の場合、加えて結晶を非常に大きくすることも必要ですが、それが難しく、測定にもさまざまな問題が出てきます。
タンパク質の構造解析では、いかに質の良い結晶を作るかが課題なのです。
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茨城大学 工学部 物質科学工学科 教授 海野 昌喜 先生
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