イクラを使って薬をつくる

イクラを使って薬をつくる

イクラの養殖場が薬の工場になる!?

イクラは、1粒1円などという安値で取引されるほど価値が下がり、養殖業者は悲鳴を上げています。そこで、イクラの性質を利用して薬がつくれないかという研究が進んでいます。例えば抗がん剤をつくるイクラや、血圧の上昇を抑える薬をつくるイクラなどができると、養殖業者にとっても、製薬メーカーにとってもプラスになります。将来的には、イクラの養殖場が薬の工場になることもあるかもしれません。
方法はこうです。ある医薬品活性のあるたんぱく質(=特定の疾患の治療に有効なたんぱく質)をつくる遺伝子をイクラに組み込みます。すると、イクラ自身が、組み込まれた遺伝子によって、そのたんぱく質を生産していくのです。
イクラのよいところは、4℃で生存し、発育できる点です。4℃というと、冷蔵庫内とほぼ同じ。つまり、特別な装置がなくても、一般家庭の冷蔵庫でできることなのです。実際、ヒツジのミルクから、ある種の病気の治療に有効な薬をつくる技術はすでに実用化されているのですが、この場合、ミルクの温度はヒツジの体温と同じ36~37℃と高温になってしまうため、高温に耐えられないたんぱく質の生成は不可能です。

魚からヒトへ感染する感染症は確認されていない

もう一つ、イクラを使う利点として、魚から人への感染症が確認されていない点があります。新型インフルエンザは、もともとは豚が感染していたウイルスが人へも感染し始めたことによって起こりました。BSE(牛海綿状脳症)は、BSEにかかった牛から人へ感染する病気です。人と家畜などの両方に感染する病原体(人畜共通感染症)がこれらの病気を引き起こしているのです。まだ知られていない人畜共通の病原体が存在する可能性は否定できず、哺乳類を介して薬をつくり出そうとする場合、常にこのリスクがつきまといます。
その点、魚と人に共通の感染症を引き起こす病原体は、これまで、まったく確認されていません。この点では、哺乳類より魚を使うほうが、ずっとリスクが少ないのです。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 教授 吉崎 悟朗 先生

東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 教授 吉崎 悟朗 先生

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生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

生物学というと、DNAや細胞の研究をすると思われがちですが、そうではなく、何よりも生きた個体、海や川や湖で泳いでいる魚たちが基本だと、私は思っています。ですから、海や川や湖に生きている魚を見に行き、自分でも飼育して、魚へのイマジネーションを広げてほしいなあと思うのです。私は小学生のころにメダカの交尾と産卵を見て、めちゃめちゃ感動したことが、今日の研究意欲の土台になっています。あなたも、自分の一生の仕事に繋がる体験を、ぜひ若い頃にしてほしいと思います。

先生への質問

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東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。