耐震偽装問題は、建築確認のチェックが甘かった
建築確認を民間に委託した
2005年に発覚した耐震偽装問題は、建築士が設計したマンションやホテルが耐震基準を満たしていなかった事件です。これには、民間の指定確認検査機関が関係しています。マンションなどを建てる場合には建築確認が必要で、従来は役所が行っていました。しかし、1998年に法律が改正されて、民間の指定確認検査機関でも検査できるようになりました。これは阪神・淡路大震災の後に数多くの建物を造る必要があり、建築確認に時間がかかりすぎては復興のスピードが鈍るなどの理由から、規制緩和して、役所だけでなく民間でも検査を行えるようにしたものです。
「お客さん」には甘くなる
耐震偽装問題で偽った構造設計を見過ごしたのは、民間の指定確認検査機関でした。建築確認は公権力の行使であることには違いがないので、役所でも民間でも法律に従って確認すれば問題がないように思えます。しかし、役所と民間では立場がまったく違います。役所は規制の権限を持っているので、基本的にはミスがないかを厳重にチェックする立場です。民間でもチェックする立場であることには違いがありませんが、マンションを建てようとする建築主は「お客さん」に当たるのです。民間の指定確認検査機関はチェック機関ではありますが、マンション業者は検査料を支払ってくれるお客さんでもあるのです。行政から見れば、マンション業者はお客さんではなく、規制の対象で、遠慮する必要はまったくありません。しかし、民間同士の商取引では、指定確認検査機関はお客さんに都合の悪いことは言えない立場です。役所と同じように時間をかけて厳しくやったら、マンション業者はお金を払ってまで頼む必要はなく、ほかの機関に依頼することもできます。そのためスピーディに行い、検査も甘くなる傾向にあります。
民間にゆだねる時に、規制の権限や基準をキッチリと定めておけばいいと考えられますが、役所と同じように規制することは、なかなか難しいと考えられます。
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先生情報 / 大学情報
香川大学 法学部 法学科 教授 三野 靖 先生
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