役所と民間が競争する市場化テスト
民間だけで競争している
「市場化テスト」という国の制度があります。役所と民間がサービスの質や効率を競い合って、勝った方が引き続き事業を継続し、負けたほうは撤退するというものです。小泉純一郎氏が総理大臣であったときに掲げた「民でできるものは民へ」という規制緩和の基本姿勢を具体化したものです。例えばハローワーク(職業安定所)では無料で就職先を紹介しています。そして、民間会社でも有料ですが同じように職業紹介をしています。行っている業務の内容はほぼ同じなので、どちらがよりよいサービスを効率よく提供できるかを競争させようとするものです。従来の民間委託は、役所が行ってきたことを民間に任せるもので、役所は委託する側でした。しかし、市場化テストでは、競い合った結果、役所が負ければ撤退しなければなりません。
しかし、実施してみると役所は消極的でほとんど参加せず、民間だけで競争をしています。役所が参加するのはもともと撤退してもいいと思っている分野や非常勤職員などが行っている仕事だけで、競争原理がうまくはたらかず、市場化テストは形骸化しています。
日本の雇用システムには不向き
イギリスやアメリカでは市場化テストは盛んに行われていて、一定の成果が見られます。しかし、日本の雇用システムでは制度的に無理があります。
アメリカなどでは政権が変わると、公務員ががらっと入れ替わります。民間企業でも職場や職業を移動するのは当たり前になっています。日本も少し変わってはきましたが、基本的には年功序列で、就職すれば一生そこでキャリアを積む人が依然として多いのが現状です。特に公務員の場合、よほどのことがない限り、定年まで勤める人が大半です。
市場化テストで負けたほうは撤退するというのは、労働市場が固定化している日本の社会にはなじみません。しかも、3年から5年経過したら、再び競争するシステムになっています。最初は勝っても次は負けるかも知れません。日本の役所のシステムは、まだ民間と競争するようには構築されていません。
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先生情報 / 大学情報
香川大学 法学部 法学科 教授 三野 靖 先生
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