寝不足でもきちんと実る!? おいしい日本のモモを熱帯高地で作ろう

寝不足でもきちんと実る!? おいしい日本のモモを熱帯高地で作ろう

900時間眠ったのち目覚めて実がなるモモ

人気の果物の1つにモモがあります。夏に収穫されることから、モモは、温暖な気候さえあればよく育つイメージがあります。しかし実際には、秋冬の低温時期が、実をつけるためにとても大切な役割を果たしています。
一般的に冬に葉を落とす植物が実をつけるためには、低温による休眠時間が必要です。遺伝子の中に、そういった命令が組み込まれているのです。モモの場合、気温7℃以下の状態で、約900時間、ぐっすり眠らないと発芽することができず、実もなりません。これを植物の「低温要求性」と呼んでいます。
ところが、近ごろ問題になっている地球温暖化の影響で、日本でも秋の終わりから冬のはじめにかけての低温量が少なく、発芽に必要な低温要求性が満たされる時期が遅くなっています。
特に日本のモモの品種はこの低温要求性が高く、温暖過ぎる条件ではさまざまな問題が発生してしまいます。

たくさん眠らなくてもおいしいモモをめざして

日本のモモは、甘くて食感もすぐれていることから、市場で人気のフルーツです。にもかかわらず、このまま温暖化がすすんだら、日本産の絶品のモモが収穫できなくなるかもしれません。
化学物質を使って、むりやりモモを眠らせたり、目覚めさせたりする方法もあるのですが、花芽が落ちたり、人の健康に悪い影響を与える可能性があることから、別の安心・安全な手段が模索されました。
その1つの解決策が、長い時間眠らなくても発芽する海外の品種と、日本の品種を交配させることで、低温量が少なくても、食感・味ともにすばらしいモモの新しい品種を開発しようという試みです。これなら、人体に影響も与えず、安心して食べられます。
また、こうして開発された日本のおいしいモモを熱帯であるタイやオーストラリアの一部などの亜熱帯気候の地域で栽培しようとする研究プロジェクトも、すでに始まっています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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香川大学 農学部 応用生物科学科 教授 片岡 郁雄 先生

香川大学 農学部 応用生物科学科 教授 片岡 郁雄 先生

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農学系/園芸系

メッセージ

「見て楽しみ、食べて味わえ、健康になれる」、果物には魅力がいっぱいです。果物の品種改良は,野山に自生する野生種や栽培品種の特性を把握し、交配して果実を収穫。さらに種を採取して植物を育て,その実の成分や食味をデータ化し、よりすぐりのものを絞り込んでいく。新品種の開発には、年月がかかりますが、個性的な品種が得られた時の喜びは感動的です。暖かい地域でも栽培できるサクランボや甘いキウイベリーなど新しい果物を作り出す研究にきっと魅力を感じてもらえると思います。

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