自分の骨から作った骨ネジで、骨折を治す夢の技術

自分の骨から作った骨ネジで、骨折を治す夢の技術

痛みと高額な治療費、骨折治療の問題とは

骨が折れたとき、どんな治療をするでしょうか。手術では通常、金属製のネジを使い、折れたところを固定します。その後、骨がくっついてきたらもう一度手術をします。体内に残った異物・金属ネジを取り出すためです。抜釘(ばってい)術と呼ばれ、骨が折れた人は合計二回手術を受ける必要があります。
すなわち痛い思いも二回することになります。また、医療用の金属製ネジは外国製のものが多く、とても高価です。患者さんには肉体的にも、経済的にも負担がかかるのです。
こうした状況を改善するために、生体吸収性素材を使ったネジが開発されました。ところがこのネジを使った臨床例のうち、手術後5年経ってもネジが完全に溶けないケースがありました。体内に残されたネジはやがて関節を壊しはじめ、再手術が必要となりました。

自分の骨を使ってネジを作れないか

患者さんの負担を考えれば、手術は一回ですませる方が望ましい。とはいえ生体吸収性素材では、問題が起こる可能性があります。そこで思いついたのが、骨です。
患者さんの骨を使ってネジを作ったらどんなプラスの面があるのか。自分の骨で作られたネジを骨の中に埋め込みます。骨製のネジならやがてまわりの骨と同化します。これならネジを後から抜く必要はなく、手術は一度で完了です。しかも自分の骨を使うため、異物反応や副作用が起こる心配もありません。ネジの材料が自分の骨ということは、材料費はタダというわけです。患者さんに多くのメリットを提供できます。
とはいえ骨は樹木のようなセル構造をしていてとても繊細な材質です。ひび割れを起こさずにネジ状の構造に仕上げるには、高度な技術が求められます。ネジの構造を決め、骨を削ってネジを作る機械の設計から取り組み、その機械が企業と共同で開発されました。慎重な基礎研究を積み重ねた上で、手術で骨ネジを使った骨折の治療が行われました。この方法は有効であることが次第に明らかになりつつありますが、今後の実用化にむけ、さらに研究が続けられています。

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島根大学 医学部 医学科 教授 内尾 祐司 先生

島根大学 医学部 医学科 教授 内尾 祐司 先生

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メッセージ

人がやらないことや、「正しい」とか「これが標準だ」と誰も疑問に思わなかったことを、本当かどうかと疑ってみる。このリサーチマインドが、医学の世界ではとても重要です。医学には、どこまで突き詰めても、これで終わりという限界がありません。正解のさらに先に新しい正解が待っています。しっかりとした知識を身につけ、その上で新しい道を拓いていくこと。この気持ちこそが医療医学を進歩させるのです。医学をめざす人はぜひ、こうした気概を持って、この世界に飛び込んできてください。

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