転んでもけがをしない床材
転倒の危険
日本では高齢化が進み、介護が必要な人が年々増加しています。厚生労働省の調査によると、高齢者の介護が必要になる原因の約12%が、骨折や転倒によるものとされています。転倒事故が起こる場所としては、自宅の居室が最も多く、全体の45%を占めています。さらに、転倒した要介護高齢者の10人に1人が骨折をしているという統計もあります。一方で、病院のリハビリテーションセンターなどの床材で多く使われているクッションフロアでさえも、実際には衝撃に対する緩和性能がほとんどありません。これまで、転倒時の安全性という観念から床材が作られることはあまり行われてこなかったのです。
安全な床材を考える
そこで、高齢者が転倒した際の衝撃を和らげる床材の開発が始まりました。転倒時にけがを防ぐためには、床がある程度変形して衝撃を受け止める必要があります。しかし、日常生活においては、床の歩行快適性も重要です。床が柔らかければけがはしにくいかもしれませんが、その反面、安定せずに歩きづらくなる可能性もあります。歩行快適性といった目に見えない感覚を数値で表すため、被験者試験を行い、歩きやすさを評価し、その時の変形量を特殊な機械で測定・分析し、データサイエンスの手法で解析します。安全性と歩行快適性を兼ね備える変形量が割り出せたら、床材としてそれを実現できる材料の選定や設計を行います。
空間のダイバーシティのために
さらに、簡易に置き敷きできるという条件を加えて、置き敷き用の畳が開発されました。畳の形状を保持する板材と、特殊な不織布を緩衝材として用いることで、荷重がかかった際の局部的な変形を抑制し、歩行快適性を担保しています。
住宅を含む現在の多くの建築は、合理的に成り立つように設計されているため、すべての人が満足できるものになっているわけではありません。ダイバーシティが増すにつれ、空間にも多様性が求められるようになり、それぞれの生活様式に合わせた建築が必要となるでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
島根大学 総合理工学部 建築デザイン学科 准教授 清水 貴史 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
建築学、建築環境学、建築音響学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?