希少な野生生物を感染症から救う
恐ろしい寄生虫による感染症
「日本住血吸虫症」は、かつて山梨県などで流行した寄生虫感染症です。水田やため池に生息する小型の巻貝の中で成長した日本住血吸虫は、その後、人間の皮膚から体内に入ります。そして、寄生虫の産んだ卵が、肝臓などの血管に詰まって炎症を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもある恐ろしい感染症です。日本では1970年代にほぼ撲滅されましたが、中国や東南アジアなどでは今も猛威をふるい、非常に怖い寄生虫感染症として知られています
さまざまな感染ルート
希少な野生生物が感染症にかかった場合、保護・治療が必要です。そのためには、病気がどのようなルートと原因で発生したのかを、知る必要があります。
例えば、ヒトの蟯虫(ギョウチュウ)や結核菌が、チンパンジーやゴリラなど動物園の類人猿に寄生することがあります。蟯虫や結核菌の寄生・感染で多くのヒトでは、発症することは少ないのですが、サルなどヒト以外の霊長類に感染すると発症し、健康を害することがあります。
感染症というと、鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)など、野生動物からヒトに伝播するもののみという印象がありますが、実は逆の場合もあるのです。このことは、ウシなどの家畜の病原体(寄生虫や細菌、ウイルスなど)が、野生動物に感染することもありますし、逆の場合もあります。
モニタリング調査で実態を把握
このように自然界ではヒト・家畜を含む多様な動物の間で病原体のキャッチボールが起きているようです。中には、希少野生生物を絶滅させる要因にもなりかねません。そこで、国や自治体などの許可を得、生きている動物を捕獲し、感染症のモニタリング調査を行っています。野生動物における感染症の実態を把握するためには、ある程度の標本数が必要となります。そこで、最近ではカモメなど集団で行動する水鳥を捕獲するなどして、調査・研究が進められています。このような分野は野生動物医学あるいは保全医学として、近年、とても注目されています。
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先生情報 / 大学情報
酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 教授 浅川 満彦 先生
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寄生虫学、野生動物医学、保全医学先生が目指すSDGs
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