2枚の絵を重ねて読み解く暗号「視覚復号型秘密分散」

2枚の絵を重ねて読み解く暗号「視覚復号型秘密分散」

秘密分散とは何か?

暗号とは通信内容を読みにくくする方法で、軍事目的などで開発され、現代ではネット通販などにも利用されています。暗号になる元の情報を「平文(ひらぶん)」、それを読みにくい状態に変えることを「暗号化」、暗号文を読める状態に戻すのを「復号」と呼びます。暗号は1つの平文から、暗号表などの「鍵」を使って1つの暗号文を作り、鍵を基に復号しますが、この方法だと暗号文から鍵の法則や平文を解読される危険性があります。そこで1つの平文から2つの暗号文を作る暗号化=秘密分散が生まれました。片方の暗号文を見るだけでは原理的に解読不可能な、より秘密性の高い暗号になるわけです。

画像情報を操作して作る

視覚復号型秘密分散とは、目で見ただけで復号できる画像による暗号です。例えば透明な2枚のシートに印刷された画像を重ねると、ある情報や別の絵が浮かび上がる仕組みです。
原理を説明すると、モノクロ印刷で濃淡を表現する時、黒っぽいところは単位面積あたりのドットの密度が高く、グレーから白に近づくにつれドットの密度が低くなります。「ピクセル(画素)」単位で考えると、縦2×横2の4ピクセルで白黒を配置して、4つのうち白黒が2つずつだと50%のグレーに見えます。2枚の重ね合わせを考える場合、白+白→白、白+黒→黒、黒+白→黒、黒+黒→黒の4段階の濃度となります。これはコンピュータにも使われる「ブール演算」の考え方と同じです。この原理でグレーと黒を意図的に配置すれば、まだら模様のシート2枚を重ねるとグレーと黒のチェック柄が浮かび上がるといった暗号画像が作れるのです。

乱数を使って

先ほどの要領でグレーと黒の配置を暗号化していく際には乱数を使い、規則的に並ばないようにします。各ピクセルで乱数を求め、ピクセルを暗く(100%黒)する場合はシート1の乱数と逆の配置をシート2に、ピクセルを明るく(50%グレー)するには両方のシートに同じ配列にしていくと、それぞれのシートを見ても平文が読み取れない暗号が完成するのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京大学 教養学部 広域科学科 教授 山口 泰 先生

東京大学 教養学部 広域科学科 教授 山口 泰 先生

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メッセージ

大学で専門的な研究をしていても、高校で学んだ基礎があちこちで出てきます。今回、紹介した「視覚復号型暗号」でも数学Aで習う「集合」や「順列」といった考え方や計算法がよく使われます。私は大学時代工学系の専攻で、コンピュータにおける画像処理や形状処理を勉強していたのですが、最終的に人間に見せる画像を作るために、目や脳についても学ぶことになりました。今後、さまざまな領域を理解するために高校で学ぶことは、いずれも不可欠な基礎となりますから、不得意科目を作らず、まんべんなく勉強しておくといいでしょう。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。