古代ギリシャから現代までの真空の科学史
真空論争
古代ギリシャ時代から現代に続く、科学的な論争があります。「真空は存在するか」という問いもその一つです。
あると主張する一派は、「世界は空虚な空間に原子が飛んでいるので、真空はある」という立場です。一方、哲学者・科学者であるアリストテレスは、その世界観から「真空はない」とする立場でした。原子を認めることは無神論につながるため、キリスト教世界だったヨーロッパでは、長い間アリストテレスの主張が主流でした。
17世紀に訪れた転換期
しかし17世紀になると、ガリレオが発見した現象をきっかけにして、アリストテレスの説が崩れていきます。その現象とは、地下約10メートルよりも深い井戸では、ポンプで水を汲み上げられなくなるという事実でした。
以後、ガリレオの弟子トリチェリが水銀柱で真空を作りだしたのを初めとして、いろいろな科学者が実験を行い、真空の存在が確かめられました。
この時代までは、書物や宗教的権威が学問の根拠とされていましたが、17世紀には実験が自然を考える材料になりました。それによって、学問の方法が大きく変わったのです。
進み続ける真空の研究
18世紀になると、真空をひいたガラス管に電圧をかける実験が行われるようになりました。19世紀末には電子やX線が発見されました。また、電球はエジソンによって19世紀後半に発明され、初めて真空をひいたガラスの管が工業製品に使われた例です。真空管の発明はラジオなど通信技術の発展にも大きく寄与しました。どれも今の私たちの生活には欠かせない技術の基盤になっています。
真空の技術は、原子核実験の機器であるサイクロトロン(電磁石と電場を利用した加速器)という装置や、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏の研究で知られるスーパーカミオカンデ(素粒子観測装置)の光電子増倍管でも、重要な役割を果たしています。
真空が実際にはどのようなものであるのかという問題は、素粒子理論の発展によってさまざまに議論されるようになり、宇宙の誕生を解明する手がかりとして、注目されています。
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