インドから伝わった曼荼羅は、なぜ中国で絵柄が変化したのか

インドから伝わった曼荼羅は、なぜ中国で絵柄が変化したのか

「悟り」をイメージ化した曼荼羅

空海が開いた真言宗の根幹にある曼荼羅(まんだら)は、密教の思想にもとづいて、「悟りの真理」をテーマにその存在と到達への道筋をイメージ化した絵画です。金剛界と胎蔵界(たいぞうかい)が2枚1組となる大画面の絵画です。例えば胎蔵界では、私たちの心を蓮に喩えて、今は煩悩に覆われ固くつぼみが閉じているけれども、心に水と栄養を与えて花を咲かせて、仮に中を覗けば、誰しもが心の中に中央の大日如来(悟りの可能性)を持っていることを示しています。また、その心を表す大日如来の背景の大蓮華を真っ赤な赤色で表現することも特徴です。

経典と異なる中国の曼荼羅

平安時代、空海はこの曼荼羅を唐から日本に持ち帰りました。元をたどれば仏教の発祥の地インドから伝わったものですが、チベットに伝わる曼荼羅と比べると、絵柄に違いがあります。経典と照らし合わせるとチベットに伝わっている曼荼羅の方が忠実であるので、空海が持ち帰った曼荼羅は中国で独自の解釈が加えられ、作られたものだと考えられます。例えば、先の大蓮華について、経典では白色とされていますが、実際には赤色になっています。また、チベットでは金剛界と胎蔵界を2枚1組とする例もありません。

何とかイメージを伝えたい!

この曼荼羅が中国で作られた目的は定かではありません。ただ、この曼荼羅ならではの特徴を読み解くと、より丁寧に曼荼羅を表現してイメージさせようとしたことが分かってきました。本来、曼荼羅は師が弟子を悟りへと導く儀礼(灌頂〈かんじょう〉)の中で用い、終われば破棄されます。当然、曼荼羅を一度見ただけで理解することはできません。そこで、こうした儀礼以外においても曼荼羅に意識を向けさせるために新たなものを作りました。2枚の曼荼羅は一辺4メートルを超える巨大なもので、複雑に内容が描かれますが、「悟り」がよくわからなくても、大画面の迫力は、見る者に訴えかけるものがあります。制作の主眼にあったのはイメージをどう具体的に伝えるかであったと考えられます。

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大正大学 仏教学部 仏教学科 仏教文化遺産コース 講師 中村 夏葉 先生

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美術史学、日本・東洋美術史、密教学

メッセージ

「仏教美術」と一口に言っても、時代や地域ごとにさまざまな解釈が加えられており、その裾野は幅広くあります。仏像や絵画、彫刻など、よく見ると細かな違いが表れていて、比べてみることでより興味がそそられます。美術史の場合、比較しながら考察していくものですから、よりたくさんのものを実際に目で見ることが大切です。複雑なイメージを組み立てた曼荼羅(まんだら)は、仏教美術の中でもかなり見る者の感性を問うものです。想像力がたくましい人には、ぜひその奥深さを体感してほしいです。

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大正大学は大正15(1926)年に設立された、2026年に100周年を迎える伝統のある大学です。6学部10学科の学問分野で文学や心理、歴史、メディアなど、多彩な学びを展開し、地域社会に貢献できる人材を目指します。キャンパスは東京都豊島区にあり、池袋・巣鴨からもアクセスしやすい立地です。全学部が4年間を同じキャンパスで過ごします。また、1学年約1200名の学生に対し、教員は154名。教員1人あたりの1学年の学生数が7.8名と、教員との距離が非常に近いことも特徴です。