現代社会のリスクにどう対応するか? 科学と政策決定の新たな問い
リスクはゼロにはならない
現代社会において、さまざまなリスクに対応していくことは重要な課題となっています。例えば、医薬品の副作用のリスクをコントロールしたり、地震発生時の被害を最小限にしたり、気候変動によるリスクを抑えていくことが求められています。その際、リスクを科学的に評価し把握することが重要ですが、科学にはつねに不確実性がともないます。私たちは科学の不確実性を前提に、リスクへの対応策を決めていかなければなりません。リスクをコントロールするためには科学が必要ですが、科学だけでは処理できない問題もあるのです。
科学的助言に基づく政策決定
リスクへの対応では、科学的合理性とともに社会的合理性が求められます。リスクに対する定量的・分析的アプローチだけでなく、リスクに対する人間及び社会による判断に基づくアプローチを併せて考え、合意形成を行い、政策に反映していく必要があるということです。
一般に、政策や意思決定のために科学者たちが専門知識に基づいた提案をすることを、「科学的助言」といいます。科学的助言に基づいて政府がリスクに対応するための措置をとったり、さまざまな政策を決めたりします。科学者と政府が適切な距離感をとりつつ、協力して社会的な課題を解決していくことがますます求められています。
新型コロナウイルスがもたらした課題
2020年の新型コロナウイルス対応では、科学的助言がきわめて重要な役割を果たしました。しかし逆説的なのは、科学的助言の体制が最も整っているとみられていた英国や米国で科学と政治の協働がうまくいかなかったことです。逆に日本では、科学的助言の体制整備が進んでいたとは言えなかったにもかかわらず、感染症対策分野の優れた科学者が政府と密接に連携して実効性のある方策(クラスター対策など)を講じました。緊急時には結局、科学者と政府との間の形式にとらわれない協働が必要だったということです。新型コロナウイルス対応の経緯は、科学的助言のあり方に関する議論に新たな問題を提起したといえます。
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新潟大学 創生学部 人文社会科学系 教授 佐藤 靖 先生
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