児童虐待を防止するペアレント・トレーニング

心理的虐待が増えている
児童虐待相談対応件数の推移を見てみると、1999年に比べて、2020年には約18倍に増えています。増加の背景には、児童虐待防止法の改正や警察のDV対策などが強化され、家庭内の児童虐待が可視化されるようになったという経緯があります。また虐待相談の内訳をみると、身体的虐待が24.4%、心理的虐待が59.2%となっています。こうした現状の中で必要とされているのが、児童の保護やケアはもちろん、養育者側へのサポートです。
ペアレント・トレーニング
養育者も常に虐待をしているわけではなく、子どもの問題行動を叱る→子どもが反発する→虐待にいたる、という悪循環(バッドサイクル)と、良好な関係(グッドサイクル)を行き来しています。虐待は特殊な人がすることではなく、このバッドサイクルの比率が高くなってしまった状態なのです。重要なのは、まず当事者である養育者自身が、俯瞰(ふかん)してこのサイクルの状況を把握できるようになることです。そのためのサポートをするのがソーシャルワーカーをはじめとする支援者の役割です。
そしてより具体的に養育者の意識や行動を変えていくのが「ペアレント・トレーニング」です。これは、養育者向けの、子育てに必要な養育技術の取得をめざすトレーニングプログラムです。ただ「ダメ」と言うのではなく「~しよう」、「ちゃんとして」ではなく具体的に「◯◯しよう」と伝えるなど、行動療法の技術を取り入れて、ビデオ教材などを使い実践的でわかりやすいのが特徴です。
虐待から家族の再構築へ
養育者とワーカー、そしてペアレント・トレーニングの三項関係を築き、俯瞰理論に基づいた状況把握やサポートを行うことで、家族関係そのものが再構築され、虐待の再発防止にもつながっていきます。またペアレント・トレーニングを、児童養護施設の人材育成や里親支援においての養育者サポートや、子育て現場にも活用していけば、虐待児童の保護や将来を見据えた育成環境構築にも役立つと考えられます。
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福山市立大学教育学部 児童教育学科 教授野口 啓示 先生
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