人と自然が調和した水環境からハッピーなまちづくりをめざす

人と自然の調和をめざす
かつて日本では、戦後復興のためのインフラ整備や急速な経済成長に伴い、水質汚染をはじめとする環境問題が深刻化した時期がありました。しかしその後の土木技術の進歩で、環境汚染は現在大きく改善されています。特に下水道の整備が進んで、川の水はとてもきれいになりました。
これからは、そこからさらに進めて人々の生活を豊かにするような水環境をつくることが課題です。これまでのように丈夫で長持ちするだけでなく、自然の機能を取り入れた「グリーンインフラ」に代表されるような、生物多様性や生態系との両立が土木の分野に求められています。
豊かな環境づくりに必要な生物調査
豊かな水環境づくりの具体的な事例の一つが、福岡県の室見川に住むシロウオの保全です。シロウオは体長5センチ程度のハゼ科の魚で、春になると産卵のために海から川へ登ってくるため、春の風物詩として知られています。シロウオの漁獲量は、明治時代の記録では2,000kg前後あったのに対し、最近では100kg以下と激減しています。シロウオは川の石の裏に産卵しますが、川での生息環境を詳しく調査した結果、このような環境が減っていることがわかりました。
室見川には防災のために川幅を広くした経緯があります。私たちの生活が安全になった一方で、川幅が広くなったために水の流れが遅くなり、かつては海まで運ばれていた砂が川底に積もってシロウオの産卵に必要な石を埋めてしまったことが、漁獲量減少の原因の一つだと考えられます。
地域の力で「小さな自然再生」
シロウオの生息環境調査で得られたデータから、環境の改善でシロウオの産卵の可能性がどのくらい向上するのかを計算するモデルがつくられました。それをもとに、砂に埋まった川の石を掘り起こす「小さな自然再生」という活動が地域の住民によって行われています。川の環境改善を行政ではなくその地域に住む人々が行うことで、川という水環境と人との距離を近づけるほか、持続性や地域の絆の深まりといったプラスの効果が期待されています。
参考資料
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九州産業大学建築都市工学部 都市デザイン工学科 准教授伊豫岡 宏樹 先生
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